中東かわら版

№55 カタル:経済封鎖の一部緩和

 6月5日にカタルと外交関係を断絶したサウジアラビアやUAE、バハレーン等は、陸路の封鎖や自国の空域の通過拒否、カタルに向かう船の寄港禁止など、事実上の経済封鎖と呼びうる措置をとってきた。これらの措置に関し、封鎖の一部を緩和する動きが相次いでいる。

 カタルの空域は南部はサウジ、東部はUAE、西部と北部はバハレーンの飛行情報区(FIR)に囲まれており(図1参照)、いずれかのFIRを通過しない限り第三国に向かうことができない。5日の断交後、カタル航空はバハレーンのFIRを通過するかたちで航空便を飛ばしていたものの、これがバハレーンの許可を得たものであるのか不明な状態が継続していた。しかし、11日、バハレーンは自国の管制下にあるFIRのうち、バハレーン領空を通過することになるルートを除いて、カタルの航空便が通過することを認めるよう規制を緩和した(図2参照)。また、UAEは6日からカタルに向かう航空便がUAEの空域を通過することを禁止していたが、12日、UAEは、カタルの航空会社以外の航空便がカタルに向かうためにUAEの空域を通過することは許可するよう規制を緩和している。

図1:カタル近郊の飛行情報区

 

出所:The Straits Times

 

図2:バハレーンが規制している航空ルート

出所:Flightrader24

 

 また、海上輸送については、公海から直接カタルの領海に接続できるため、断交後もカタルの港から自由に船の出入りができている。しかし、UAEはカタルに向かう全ての船につき、物資搬入のハブ港となっているジュベル・アリー港の使用や、石油タンカーやLNG船の給油地となっているフジャイラ港の利用を禁止する指示を出したことで、海運に支障が発生していた。7日にアブダビの石油港機構が寄港拒否の制限緩和を通知したものの、翌日にはそれを覆す決定を通知していた。そのため、物資の搬送については11日以降オマーンが主要な経由地となり、12日にはMSCやMaerskといった欧米の海運会社もオマーンとカタルの間に新たなルートを設置しことを明らかにしている。これに対し、11日、UAEの運輸局はカタルが所有・操業していない船については、カタルの貨物をUAEで積み降ろししたりカタル向けにUAEの貨物を積み込んだりしない限り、停泊を許可するよう規制を緩和する指示を出している。

 6月13日、米国を訪問しティラーソン国務長官と会談したサウジのジュベイル外相は、記者会見においてサウジ等はカタルに対して「封鎖(blockade)」はしていないと述べ、主権の範囲内でカタル航空の領空通過を禁止しているのみであると説明したほか、必要であればカタルに対し食料・医療支援を行う用意があると述べた。米国では、6月9日にティラーソン国務長官がサウジ等に対し、人道上の懸念からカタルへの「封鎖(blockade)」を緩和するよう要請していた。

 

評価

 サウジ等によるカタルに対する事実上の経済封鎖に対しては、カタルとのビジネスに携わる多くの国が懸念を表明していた。欧米諸国もカタルにテロ支援の疑惑に真剣に応えるよう要請しながらも、封鎖については緩和するよう主張していた。ここにきて封鎖が一部緩和に向かったのは、①カタル側が断交や経済封鎖に対して対抗措置をとっていないため、サウジ等の一方的な行動に理解がほとんど集まらなかったこと、②海運でオマーンとの間に代替ルートが設置されたり、トルコやイラン、モロッコがカタルに食料を空輸するなど、封鎖による圧力が十分に機能しない状況になったことが理由として指摘できよう。もっとも、緊張が緩和されたということは、サウジ側としてはここから更に別の圧力をかける、あるいは現在の封鎖状況を今後も中長期的に継続するといった選択をする誘因が生まれたことにもなる。

 米国では事態の沈静化とカタルのこれまでのテロ対策の貢献を評価する国務省や国防総省、軍と、カタルがテロ支援に携わっていると主張するトランプ大統領との間に意見の大きな乖離があり、米国としてこの問題にどう対応していくのかが依然として不明である。しかし、このようななか、14日にカタルのアティーヤ国防担当国務相は米国を訪問し、マティス国防長官とF-15戦闘機36機の調達で合意した。これは2016年11月に承認されていた契約の一部であり、総額120億ドル規模の契約となる。アティーヤ国防担当国務相は、同契約により6万人分の雇用が米国で生まれることになると述べ、トランプ政権の主要な関心事項である米国の雇用創出にカタルが貢献していることをアピールした。危機発生以降サウジ・UAE支持の立場を強めているトランプ大統領の懐柔にカタルが成功するのであれば、サウジ等による経済封鎖への支持は一層低下していくことになるだろう。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢」『中東かわら版』No.51(2017年6月8日)

 

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP