中東かわら版

№54 エジプト:サウジへの2島引渡し合意を議会が承認

 6月14日、エジプトの議会は、ティーラーン島とサナーフィール島をサウジアラビアに引き渡すという内容のエジプト・サウジ間合意(2016年4月)を、賛成多数で承認した。11日から議会の立法・憲法問題委員会で審議が始まり、2島がサウジ領であることを支持する政府派議員とこれに反対する議員とが激しく対立したが、議会多数派である政府派が勝った。

 他方、2島引渡し合意に関しては、2017年1月に最高行政裁判所が無効判決を出しており、合意に反対する議員や活動家などは、無効判決にもかかわらず政府が議会審議を進めたことは司法権力の無視であると批判している。また現在、最高憲法裁判所で最高行政裁判決の法的正当性が審理されている最中だが、この判決を待たずに議会の採決に持ち込んだことも批判した。一部の反対派は、憲法151条に基づき、領土の割譲をともなう国際合意は国民投票にかけるべきと主張しているが、政府は2島がエジプト領であった法的根拠はないため合意は領土の割譲を意味せず、国民投票は実施しないとの立場である。

 エジプト政府は公文書などに基づき、1950年にサウジアラビアがエジプトに2島の保護を要請し、それ以来エジプトが支配してきたと説明している。最初にサウジが2島の領有権を主張したのは1957年だった。その後、第3次中東戦争におけるエジプトのティーラーン海峡封鎖、イスラエルの占領、第4次中東戦争後の「Zone C」指定(シナイ半島駐留多国籍軍監視団(MFO)とエジプト警察が展開する地域)を経て、現在はエジプトが支配している。しかし1989年、再びサウジが領有権を主張した。1990年、ムバーラク元大統領は2島の領有権はサウジにあるとする大統領令を発出し、それ以降、エジプト外務省・国防省・諜報機関はサウジ側と2島の帰属について交渉を開始したとされる。政府の説明によれば、その後11回の二国間交渉を経て、2016年4月にシーシー大統領とサルマーン国王は2島の帰属をサウジアラビアとすることで合意した。

 

評価

 2島の帰属問題をめぐるエジプト国内の論争には、3つの側面がある。第一に、事実関係がいまだ不明ということである。ティーラーン島とサナーフィール島には、アカバ湾から紅海への出口に位置するという戦略的重要性だけでなく、エジプトがこれらの島を使ってイスラエルと戦ったという歴史があり、2島引渡し合意はエジプト人の国民感情を逆撫でするものであった。したがって、エジプト政府は、サウジに領有権があることを示す実際の文書を公表することで、国民に合意の正当性を説得しなければならないだろう。

 第二に、合意の正当性をめぐり、エジプト国内で2つの矛盾する手続きがとられている。一方には合意を無効とする司法判断が存在し、他方には合意を承認する行政・立法決定が存在するため、今後、合意が履行されるのか不明である。政府は、行政裁には国境画定という主権事項に関わる問題を判断する法的権限はないと主張し、最高憲法裁判所に最高行政裁判決の無効化を訴えている。最高憲法裁は7月に判断を下す予定だが、エジプト・サウジ間の外交関係に影響する問題でもあるため、憲法裁が国の決定を覆すような判断を避ける可能性もある。

 第三に、合意が履行されるにせよ無効となるにせよ、この合意はシーシー政権に負の影響を及ぼす可能性が高い。合意が履行された場合は、国民の間にエジプト政府はサウジから経済支援を受けるために2島を「売った」という反政府感情が高まることは避けられないだろう。一方、合意を無効とする司法判断を(可能性は低いものの)政府が仮に受け入れた場合、最近はやや改善傾向にあったエジプト・サウジ関係は再び悪化し、サウジからの経済支援や投資が滞り続けるだろう。

(金谷研究員)

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