中東かわら版

№51 カタル:サウジ等との外交関係断絶を巡る情勢

 6月5日にサウジ等がカタルとの外交関係を断絶したことに関し、様々な動きが続いている。

 危機の発生当初から仲介役として動いていたクウェイトであるが、サバーフ首長は6日夜にサウジアラビアを訪問してサルマーン国王と会談した後、7日朝にカタル訪問を終えたオマーンのユースフ・アラウィー外務担当相とクウェイトで会談、同日にUAEとカタルをそれぞれ訪問し、両国の首脳と会談している。いずれの会談においても詳細は明らかにされていない。また、この間、5日と7日夜にトルコのエルドアン大統領と電話会談をしており、事態の進展においてトルコと連携していることを窺わせている。

 トルコでは、6月7日にトルコ議会がカタルにあるトルコ軍基地への部隊配備に関する法案を賛成多数で可決した。カタルへのトルコ軍基地設置は2014年に合意されたものであり、可決された法案も断交危機が発生する以前から審議されていたものである。しかし、野党の共和人民党(CHP)は「片方に肩入れをしながら、どのようにして(トルコが)仲介者になれるのか」と批判している。また、サウジとの陸路封鎖により食料の輸入ルートが途絶えていることに関し、トルコの貿易当局はカタルが要求する食料・水の供給を行う準備があると述べている。

 米国では、7日にトランプ大統領がタミーム首長と電話会談し、「地域の全ての国がテロ組織への資金提供の阻止、過激なイデオロギーの促進の停止で協力することの重要性」を強調したほか、「GCCの団結、強固な米・GCCパートナーシップがテロリズムの打倒と地域の安定の促進に重要である」と述べ、「当事者間の意見の相違を解決するために、もし必要であるならばホワイトハウスでの会談を用意するなどの支援を行う」と提案した。

 周辺諸国のなかでは、コモロ連合が新たにカタルとの外交関係断絶を決定した。また、ジブチは外交関係の縮小を表明し、セネガルは駐カタル大使を召還した。これにより、カタルと外交関係を断絶した国は9カ国(バハレーン、サウジアラビア、UAE、エジプト、イエメン、モルディブ、モーリシャス、モーリタニア、コモロ連合)とリビア東部政府、外交関係の縮小を表明した国は3カ国(ヨルダン、ジブチ、セネガル)となる。

 経済封鎖を巡る状況として、UAEは当初カタルに向かう全ての船の寄港を拒否する方針を示していたが、7日、アブダビの石油港機構は、カタルが所有・操業していない船については寄港拒否の制限から外すことを新たに通知した。

 

評価

 紛争の解決を目指して、クウェイトによる精力的な仲介外交が続いている。事態の沈静化に向けて進展があったのか現時点では定かではないが、少なくとも関係各国がクウェイトを通じて対話を行おうとしている様子は見て取れる。米国はトランプ大統領がタミーム首長と電話会談を行い、仲介を申し出たと報じられているが、前日の6日にカタルがテロ組織への資金支援に関与しているという主旨の発言をTwitterで行ったトランプ大統領が、仲介役としてカタルから歓迎されないことは想像に難くない。また、ドイツを訪問していたサウジのジュベイル外相は「ドイツ、フランスに仲介の要請はしていない」と述べ、地域内で問題を解決する意向を示した。

 トルコで軍をカタルに展開することを認める法案が可決されたことは、これが事前に予定されていたものであったとしても、タイミングとしては誤ったメッセージを送ることになるものであろう。事態は軍事的な対立に発展する兆候は見せておらず、カタルも断交してきた国々に対する報復措置や過剰な批判は避けている状況にある。カタルの『Al-Jazeera』はトルコの決定を「明確なカタルへの支援」として称賛しており、政治的に利用されるかたちとなっている。もっとも、これはあくまで国内法の整備であり、実際にトルコが軍を展開することを決定したわけではない。

 経済封鎖については、カタル当局からは物資の不足は発生しておらず、物価の高騰も起きていないとの見解が繰り返し示されている。封鎖の長期化や締め付けの強化が進むことによって今後影響が出てくる恐れはあるが、現時点では物資不足による大きな混乱は発生していないと言えよう。トルコやイランが食料支援を提案しているほか、これまで陸路から運んでいた物資が海路で搬入されるようになれば、封鎖の影響は更に限定的になる。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き」『中東かわら版』No.49(2017年6月7日)

 

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP