中東かわら版

№49 カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する域外大国の動き

 6月6日、サウジアラビアのサルマーン国王はトランプ米大統領と電話会談を行った。ホワイトハウスが発出した文書によると、両首脳は「地域のいかなる国によるものでも、テロ組織への資金流入を阻止し、過激主義の促進を根絶するという重要な目標」について議論したほか、トランプ大統領が「GCCの団結がテロの打倒と地域の安定に重要である」ことを強調した。また、トランプ大統領は自身のTwitterアカウント上で、「サウジ訪問の成果が既に出ていることを見れて非常に嬉しい」、「(イスラーム諸国の首脳から)過激主義への資金流入に対して厳しい対応をとると言われた、それらは全てカタルに言及していた」と述べた。

 一方、『CNN』は、米政府高官およびカタル政府高官からの情報として、カタル国営通信がハッキングを受けた問題について、FBIが捜査チームをカタルに送っていると報じた。米政府高官によると、米当局が収集した情報はロシアのハッカーが背後にいることを示唆している模様であり、米国と同盟国を分断させることを狙ったものではないかと分析している。

 また、ドイツのガブリエル副首相兼外相は、ドイツの経済紙『Handelsblatt』とのインタビューにおいて、アラブ諸国によるカタルとの断交について「このような問題の解決法のトランプ化は、既に危機に悩まされている地域において特に危険である」と述べ、米国およびサウジ等を批判した。トルコではチャブシオール外相が双方への対話の呼びかけを行っていたものの、6日になってエルドアン大統領は「カタルに対する制裁が良いものであるとは思わない」、「トルコはカタルとの関係を継続し、発展させていく」と述べ、カタル寄りの姿勢を明らかにした。

 周辺諸国のなかでは、モーリタニアが新たにカタルとの外交関係断絶を決定した。また、ヨルダンは外交関係の縮小を表明し、カタルの駐ヨルダン大使に国外退去を命じるとともに、ヨルダン国内のAl-Jazeeraのオフィスを閉鎖することを発表した。

 事態の沈静化に向けて仲介の動きに出ているクウェイトであるが、6日夜、サバーフ首長がサウジアラビアを短時間訪問し、サルマーン国王と会談した。会談の詳細は明らかにされておらず、UAE資本の『Sky News Arabia』が「情報筋」からの情報としてサウジが「今夜から24時間以内にカタル政府が実施すべき10の条件をクウェイトに伝達した」と報じたものの、Sky News自身が後の報道で「湾岸の情報筋」はカタルへの条件の提案の事実を否定したと報じている。他方、Al-Jazeeraのファイサル・イードルース記者は自身のTwitterアカウント上で「イランとの外交関係断絶」、「ハマース構成員、ムスリム同胞団構成員の国外追放」、「テロ組織への支援の停止」、「Al-Jazeeraの閉鎖」などがカタルに対して要求された条件であったと述べている。

 

評価

 サウジ等によるカタルとの外交関係断絶は、地域の問題を飛び越えて国際社会全体の問題に発展しつつある。今回の騒動の発端となったタミーム首長の演説を報じたカタル国営通信のハッキング疑惑について、FBIがロシアの関与を疑っていることが報じられた。こうした報道を基に現時点で何が事実であったか臆断することは避けるべきであり、特に当事者である湾岸諸国から出てくる報道にはバイアスがかかっていることがあることに留意しておく必要があるだろう。

 一方、今回の事態はトランプ大統領のサウジ訪問との関連性が焦点になっていたが、図らずもトランプ自身がそれを認める発言をTwitter上で行った。米国が具体的にどのような行動をしたかは不明であるものの、少なくともカタルによる過激派支援疑惑について事前にイスラーム諸国と協議があったことが明らかになるとともに、トランプ大統領本人はサウジ等によるカタルとの国交断絶を正当化する立場を示している。なお、米国の駐カタル大使は、トランプの発言に先立ち、カタルがテロ対策において貢献してきたことに米国は感謝していると表明しており、米国内で立場や意見が一致しているわけではないことを露呈させている。

 今回の国交断絶では、それに伴って実施されている陸路や空路の封鎖、カタルに向かう船舶の寄港拒否といった事実上の制裁措置が懸念されている。現在カタル航空はサウジやUAEの上空を避けるように航空機を飛ばしており、アフリカ方面のフライトは大幅な迂回を強いられている。また、海路については、UAEがカタルへの物資搬入のハブ港となっているジュベル・アリー港の使用や、カタルの石油タンカーやLNG船の給油地となっているフジャイラ港の利用を禁止する指示を出している。ジュベル・アリー港で操業しているデンマークの海運会社のMaerskはオマーンなど他のルートでの運送を検討していると述べている。他方、エジプトやUAEはカタルから天然ガスを輸入しており、エジプトは60%、UAEは30%をカタルからの輸入に依存している。現時点でカタルからのLNG輸出は止められていないものの、カタルが対抗措置としてLNG禁輸を行えば、両国への影響は大きいだろう。また、これらのビジネスには欧米諸国や日本の企業も関与しており、対立がエスカレートしていけばビジネス上の損失が発生することになる。

 現在のところ顕在化している仲介の動きはクウェイトによるものである。タミーム首長はクウェイトのサバーフ首長からの要請により、6日夜に予定していた演説を延期することを決定した。双方の攻撃的な発言により関係の溝が深まっていけば、対立を収束させることはますます困難になるため、それを避ける狙いがあるのだろう。いずれにせよ、カタルから何らかの妥協を引き出さない限り、サウジやUAEが現在の措置を停止する可能性は低い。他方で、問題の最終的な解決までには時間をかけつつも、対話が開始された段階で一部の措置を緩和することも理論上は考えられうる。

 

・カタル断交に関連する中東かわら版は以下を参照

「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)

「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

「カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き」『中東かわら版』No.47(2017年6月6日)

 

(研究員 村上 拓哉)

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