中東かわら版

№48 イスラエル・パレスチナ:パレスチナ経済に対する規制緩和で合意

 6月2日、イスラエルのカハロン財政相は、西岸のラーマッラーを訪問、パレスチナ自治政府(PA)のハムダッラー首相と会談した。報道では、イスラエルの閣僚がラーマッラーを訪問したのは2014年以降、初めてである。同会談で、イスラエルとPAは、イスラエル政府のパレスチナ経済に対する規制緩和政策について合意した。同合意では、①ヨルダンとの国境であるアレンビー橋境界事務所を6月20日から10月まで、週5日(週末の金曜と土曜を除く)24時間解放する。2018年からは週末も24時間解放する、②イスラエル軍が管理する西岸のC地域(西岸全体の約6割)でのパレスチナ側の権限を強化する。具体的には、C地域内でのパレスチナ人の建物建設の認可を増やす、また不法建築物の破壊を停止する、③西岸南部の都市ヘブロンの南東部に工業地帯を建設する、などである。また合同経済委員会を再起動し、イスラエルとパレスチナ間の経済関係を規定した「パリ合意」の改定を目指すとも報道されている。

 パレスチナ経済を支援する政策については、トランプ政権がイスラエルに対して実施することを求めていた。そのためカハロン財政相とPAのビシャラ経済相が、過去数回協議を行なっていた。イスラエル閣議は、今回トランプ大統領がイスラエルを訪問する前日の5月21日に規制緩和案を承認していた。5月23日、ベツレヘムを訪問したトランプ大統領はPAのアッバース大統領と会談し、パレスチナ経済の潜在力を解き放つため、アッバース大統領と協力していくと述べていた。

評価

 パレスチナ側は、経済に対する規制緩和を歓迎しているが、パレスチナのための政策ではなく、トランプ政権の要請に対する対米配慮の政策であることは承知しているだろう。ネタニヤフ首相は、中東和平交渉の再開には後ろ向きであるが、その一方で、パレスチナ経済を支援することについては前向きな政治家である。今回の規制緩和策の中には、イスラエル軍が管理するC地域での規制を緩和し、パレスチナ人の不法建築の破壊を中止する。イスラエルの主張する「不法建設物の破壊」は、長年、パレスチナ人の強い怒りの対象になっていた。イスラエルは、パレスチナ人が申請する住宅などの建物建設の許可をほとんど出さない政策を取っている。そして認可待ちが長期化した結果、しびれを切らしたパレスチナ人が無許可で住宅などを建設すると、イスラエルは、不法な建設だとして新築した建物を破壊してきた。また「不法建設物の破壊」は、上記のような実態を知らないと、建設許可を取らずに不法建設を進めたパレスチナ人側の落ち度の結果であると見られる傾向がある。このこともパレスチナ人の怒りを買っていた。今回、一時的ではあれパレスチナ人の不法建設物破壊が中止され、パレスチナ人の住宅建設認可が緩和されるのであれば、C地域のパレスチナ人の怒りと不満はある程度減少するだろう。ただC地域を併合すると主張している与党で極右政党「ユダヤの家」の立場を配慮してか、C地域に関する規制緩和については曖昧な部分がある。

 またイスラエルとPA間の経済関係全体を規定する「パリ合意」が改定されるとの報道もある。「パリ合意」が改定されるのであれば、両者間の経済関係の大きな枠組みが変わるかもしれない。ただ「パリ合意」については、治安問題が優先された結果、ほとんど機能していないといわれている。イスラエルとパレスチナ間では、経済問題で合意が成立したとしても、状況が緊迫すると治安対策が無条件で最優先され、経済に関する合意は無視される可能性が常に存在している。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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