中東かわら版

№47 カタル:サウジ等との外交関係断絶に対する周辺国の動き

 6月5日にサウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国がカタルとの外交関係を断絶したことを受け、周辺国は様々な動きを見せている(4カ国の外交関係断絶は「カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶」『中東かわら版』No.45(2017年6月5日)

 サウジ等4カ国に続き、イエメン、モルディブ、モーリシャスの3カ国、そして東西に分裂するリビアでは東部政府がカタルとの外交関係断絶を発表した。また、カタルと外交関係のないイスラエルでは、リーバーマン国防相が「これがテロとの戦いにおける多くの協同の可能性を開くものであることは疑いない」と述べ、事態をイスラエルの国益に適うものと見なしていることを明らかにした。

 サウジやカタルと同じGCC諸国であるクウェイトとオマーンは仲介の動きを見せている。5日夜、クウェイトにサウジからハーリド・ファイサル国王顧問(マッカ州知事)が訪れ、サバーフ首長およびナッワーフ皇太子との会談が行われた。この後、サバーフ首長はカタルのタミーム首長と電話会談を行い、タミームに対して抑制的な対応をとるよう求めている。同じく5日夜、オマーンのユースフ・アラウィー外務担当相がカタルを訪問し、タミーム首長と会談している。外交関係断絶に関してオマーンからは現時点でいかなる見解も表明されていないものの、オマーン外務省はアラウィーのカタル訪問は公式なものではなく、今回の問題が発生される前から予定されていたものと説明している。

 

評価

 4カ国に続きサウジやUAEの支援を受ける複数の政府がカタルとの外交関係の断絶を発表した。今後も同様の立場にある小国の政府がこの動きに追随する可能性はあるが、情勢への影響は大きくないだろう。

 サウジ等がカタルとの外交関係断絶の理由の一つにイエメンのフーシー派支援を挙げていたため、イエメンのハーディー政権がサウジに同調することは予想されていたことだった。しかし、イエメンによるカタルとの外交関係断絶の発表はサウジ等4カ国によるほぼ同時刻の発表から約5時間遅れており、ハーディー政権は事前に話を聞かされていなかったと推測することができる。サウジ主導の連合軍の一員としてイエメンに部隊を派遣し、戦死者も出しているカタルが、サウジが糾弾するようにフーシー派を支援しているとは考えづらい。また、サウジ等がカタルのフーシー派支援を本当に問題視しているならば、イエメン政府と共同して発表するだろう。カタルとの外交関係断絶において各国は複数の理由を挙げているものの、そのうちの一部は根拠のないレッテル貼りの理由も含まれていると見られる。

 今後、同じGCC諸国であるクウェイトやオマーンによる仲介の動きが活発化していくだろう。地域大国でありカタルと関係の深いトルコは双方に対話の呼びかけを行っており、チャブシオール外相は事態の正常化に向けていかなる支援もすると述べたが、エジプト、UAEとの関係が良好でないトルコが仲介役を担う可能性は低いだろう。米国からはティラーソン国務長官が事態の沈静化を呼びかけているが、カタル側の認識では米国はサウジ・UAE側に立っているため、米国の呼びかけに応えるかは疑問だ。イランからはサウジとの陸上国境封鎖により不足が予想される食糧の支援が提案されているものの、カタルがイラン寄りの立場をとれば事態の解決はますます遠のくことになるため、カタルとしては危機的な状況に陥らない限りこれに頼ることはないと見られる。

 一方、クウェイトやオマーンの仲介は、双方に圧力をかけるというよりも、メッセージを伝達したり対話の場を用意したりすることが中心になる。そのため、事態の解決は当事者の交渉に委ねられることになり、いずれか、あるいは双方が何らかの妥協をしない限り、紛争は収束しないだろう。サウジによるハーリド・ファイサル国王顧問のクウェイト派遣が何を意味するかは未だ不明であるが、これがクウェイトの取り込みを狙うものではなくカタルとの交渉の開始を意味するのであれば、いずれ会合の場が持たれることになるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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