中東かわら版

№45 カタル:サウジ、UAE、バハレーン、エジプトが外交関係を断絶

 6月4日深夜から5日未明にかけて、サウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトの4カ国は、相次いでカタルとの外交関係を断絶すると発表した。

 サウジ政府は、「テロリズム及び過激主義の脅威から国家の安全を守るため」にカタルとの外交関係を断絶すること、カタルとの国境を陸海空の全てで閉鎖すること、サウジ国民のカタル渡航を禁止すること、サウジ国内に滞在するカタル国民の14日以内の国外退去を決定したとの声明を発出した。声明では、「1995年以降、サウジや兄弟国はカタル政府に約束の履行や合意の遵守を要求していたものの、カタル政府はたびたび国際的な義務やGCCの合意に違反してきた」と述べるとともに、カタルがイエメンのフーシー派を支援していたことが明らかになった、サウジ東部のカティーフやバハレーンでイランの支援を受けるテロ組織の活動を支援してきたと糾弾している。また、声明には、国交断絶の決定はバハレーンと共同歩調を取るものであることも記されている。他方で、カタルからの巡礼者に対してはこれまでどおり受け入れる方針であること、カタルの人々に対する支援は今後も継続していくこともあわせて言及されている。

 また、サウジ資本の『Al-Arabiya』は、イエメン紛争におけるサウジ主導の連合軍は、カタルを連合軍から外すことを決定したと報じた。カタルはイエメンに1000人規模の部隊を派遣していると見られており、6月3日にはサウジ・イエメン国境付近において任務にあたっていたカタル兵6人が負傷している。

 

評価

 5月23日から続くカタルとサウジ・UAEメディア間の紛争は(詳細は「カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾」『中東かわら版』No.38(2017年5月25日)、一転して国家間の紛争に発展した。これまでもカタルとサウジ、UAE、バハレーン、エジプトとの間ではしばしば紛争が発生しており、2014年2月には4カ国がカタルから大使を召還するという事態が起きていた(詳細は「カタル:サウジ、UAE、バハレーンによる大使召還(2014 年 3 月 5 日)(報道とりまとめ)」『中東かわら版』No.288(2014年3月12日)「GCC:カタルからの大使召還問題の解決」『中東かわら版』No.183(2014年11月17日)

 今回の騒動の発端となったのはカタルのタミーム首長の演説だったものの(カタル政府は演説の存在自体を否定)、4カ国が大使召還という措置を経ず、ほぼ同時により強硬な外交関係断絶を発表したことは、4カ国の間で事前に綿密な調整があったことを示唆するものであろう。こうした強硬な対応の背景には、かつては関係国間の調整役として米国の存在があったものの、トランプ米政権になってからサウジ・UAE寄りの姿勢が強まり、カタルとの関係が冷え込んでいることから、サウジ・UAEがカタルへの圧力を強化していると指摘する見方もある。

 もっとも、サウジからの声明にあるように、問題の本質は20年以上に渡るGCC諸国内の対立にある。声明にて言及されている1995年とは、タミーム首長の父、ハマド前首長が宮廷クーデターによりその父ハリーファ元首長を追放し、首長に就任した年である。ハマド前首長はハリーファ元首長のGCC諸国との協調路線を変更し、地域の問題において独自外交を追及するようになった。これにより他のGCC諸国と摩擦が発生するようになり、2002年にはサウジアラビアがAl-Jazeeraによるサウジ報道に抗議して大使を5年間召還するという事態も発生している。2013年にハマドからタミームに権限が委譲された際には、カタルの外交政策の転換を期待する声がサウジなどで高まったものの、タミームはハマド路線を継承したものと見られている。

 今回の国交断絶は、上記の点に鑑みれば根が深い問題である一方、こうした紛争がありながらもGCC諸国は政治・経済・社会・軍事の面で協力関係を深化させてきた。メディアを通じた批判では互いに厳しい言葉が並ぶものの、政府高官レベルでは相手国政府に対する批判は抑制的ですらある。これは、今回の措置はカタルに外交的な圧力をかけて政策変更をさせることが目的であり、カタルとの外交関係をいずれは修復することを視野に入れているからであろう。対イランと異なり、GCC諸国内でもクウェイトやオマーンは中立の立場をとることが予想され、既にカタルは両国との対話を開始している。サウジとしてもこれがGCCの分裂につながることは避けたいと考えているだろう。

 2014年のときと同様、カタル側が何らかの妥協を示さない限り、4カ国側が関係修復に乗り出すことはないと考えられるが、カタルが自国の政策を放棄し、根本から転換させることは期待しづらい。天然ガスの輸出を主要な財源とするカタルは湾岸諸国に経済的に依存しておらず、国交断絶による財政的な影響は限定的なものにとどまるだろう。他方、鉄道網や送電網の構築などGCC内部で進む共同プロジェクトの進捗は阻害されることになり、計画には遅れが生じることになるほか、カタルの航空会社がサウジ領空を通過できなくなれば、ヨーロッパとアジアを結ぶというカタルのハブ機能が低下することにもなる。今後数カ月間は双方の落とし所を巡って交渉が続くと考えられる一方、現在の対立関係が更にエスカレートする可能性は低いだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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