中東かわら版

№44 イスラーム過激派:ロンドンでの襲撃事件

 2017年64日、ロンドンの繁華街に自動車が突っ込んだ上、乗っていた3人が周囲の人々を刃物で襲う事件が発生、7人が死亡した。容疑者3人は警察によって射殺された。この事件について、5日になって「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク」が短信を発表した。

 

 

画像:「アアマーク」が発信した短信。全文訳は「治安筋はアアマーク通信に以下の通り述べた:イスラーム国の戦士からなる班が、昨日のロンドンでの諸般の攻撃を実行した」。

 

評価

 「アアマーク」の短信は、これまでのものと同様内容に乏しく、これをもって「犯行声明」と解することも、襲撃に「イスラーム国」がどの程度関与したか判断することもできない。一方、イギリスで「テロ」事件が相次いでいるが、これは2011年以降、同国が「イスラーム国」への大口の人員供給源だったことに鑑みればなんら不思議なことではない。アメリカの治安企業であるSoufan Groupによると、2015年末の時点でイギリスからは760人が「イスラーム国」に送り出されている。これは、ヨーロッパ諸国の中では、フランス(1700人)に次ぐ第2位(ドイツも同数で2位。3位はベルギーの470人。)である。また、同時期の人口100万人あたりの送り出し数を見ると、1位はベルギーの42人、以下、オーストリア(35人)、スウェーデン(31人)、フランス(26人)、デンマーク(22人)、オランダ(13人)、イギリス(12人)となっている。

 上記のような実績を見る限り、ヨーロッパ諸国で「イスラーム国」による「テロ」が発生したことになっている諸国は、いずれも「イスラーム国」にとっては大口の人員供給源だったことがわかる。「イスラーム国」への潜入・合流は、全く組織的働きかけがない個人が何の準備もなく試みて成功するものではない。つまり、「イスラーム国」に多数の人員を送り出したということは、そのような国々には人員供給のための勧誘・教化・旅程支援のような活動を行う組織的基盤がある程度広汎かつ強固に存在しているということである。このように考えれば、201511月のパリでの襲撃事件以来の「イスラーム国」による「テロ」は、予測不能な場所で予測不能な者たちが引き起こしている行為では決してないことは明らかである。

 

 

(イスラーム過激派モニター班)

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