中東かわら版

№40 パレスチナ:集団ハンストの中止

 4月17日からイスラエル刑務所内で行なわれていたパレスチナ人囚人による集団ハンストは、開始から40日目となる5月27日、中止された。イスラエル政府当局は、ハンスト中の囚人と直接交渉することはなかったが、イスラエル政府、パレスチナ自治政府、国際赤十字社による協議で妥協が成立したことを受けてハンストは中止された。イスラエル側は、囚人の家族面会が、従来の月1回から月2回に増加することだけを認めたとしたが、パレスチナ人囚人協会側は、囚人の要求の8割を認めさせたと主張している。報道では、中止された時点でハンスト中だった囚人は834人だった。集団ハンストは開始から約1カ月を越えた5月20日頃から体調を壊すハンスト参加者が増加し、報道では数十人が病院に移送されている。ただ、今回は、著しく体調を悪化させ命が危険な状態に陥った囚人はいないようだ。ハンストに参加した囚人たちは、食事は拒否したが、水と塩は摂取していた。ハンストを主導したファタハ幹部のマルワン・バルグーティは、5月16日から水の摂取も拒否していた。

評価

 集団ハンストの結果、囚人側の要求がどの程度認められたかについては、イスラエル側とパレスチナ側の発表がかなり異なっており、まだはっきりしない。他方、政治的には、獄中にいるファタハ中央委員会委員バルグーティの人気と存在感の強さが改めて証明された。

 西岸では、2015年秋からパレスチナ人個人による突発的なイスラエル人攻撃事件が続いている。この傾向は現在も続いているが、西岸の住民が一斉に抗議行動を起こす住民蜂起型の抗議運動はほとんど発生していなかった。しかし、集団ハンストが開始された後、各種の呼びかけが発出された結果、小規模ではあるが住民による各種の抗議行動が増加した。イスラエル軍との衝突が各地で発生したほか、抗議の座り込みが行なわれた。4月27日には、西岸全土でゼネストが実施され、住民の大半が参加している。西岸の住民たちは、イスラエル軍と激しく衝突することはあまりなかったが、非暴力的な抗議行動を行う意思と能力があることを示した。イスラエル軍は、住民運動型の抗議行動が増加傾向にあることに加えて、5月下旬から断食月が始まることで、衝突がさらに増加することを警戒していた。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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