中東かわら版

№38 カタル:タミーム首長の演説を巡る近隣国との紛糾

 カタルのタミーム首長が行ったとされる演説を巡り、同国とサウジアラビア、UAE、バハレーン、エジプトとの間で紛糾が発生している。5月23日朝、タミーム首長はシャマル兵役訓練所の卒業式に出席した。同日、カタル国営通信(QNA)は、卒業式でタミーム首長が演説を行い、カタルがテロを支援していると不当な批判を受けているものの、「ムスリム同胞団をテロ組織に分類したり、ハマースやヒズブッラーの抵抗運動としての役割を否定したりしている」ため批判は不適切だと述べたほか、「エジプト、UAE、バハレーンは反カタルの立場を見直すべきである」と主張したと報じた。また、「イランは地域およびイスラームにおいて無視できない力を持っており、カタルは米国、イランの双方と同時に強い関係を築くことに成功している」と述べたとも報じられた。

 しかし、23日夜、カタル政府は、QNAのウェブサイトがハッキングを受けたとする声明を発出し、報道の事実を否定した。また、ムハンマド・アブドゥルラフマーン外相が、サウジ、エジプト、バハレーン、クウェイト、UAEから大使を召還させる声明を発出したとQNAのツイッターアカウントで報じられたものの、24日朝、カタル外務省はこれを否定している。

 タミーム首長の演説を受け、サウジアラビアやUAE、エジプトは、自国内でAl-JazeeraやQNAなどのカタルのメディアへの接続を禁止する措置をとっている。サウジ資本の報道機関であるAl-Arabiyaは、タミーム首長の演説がハッキングにより捏造されたものではない証拠として、カタルTVもタミームの発言を報じたこと、QNAはハッキングの困難なインスタグラムやグーグルプラスでも同発言を報じたことを挙げている。

 24日夜、タミーム首長はクウェイトのサバーフ首長と電話会談を行っている。

 

評価

 本件については事実関係が錯綜しており、現時点で実際に何が起きたのかを判断することは困難な状況である。問題になった演説の内容は、現在シリア紛争において敵対関係にありテロ組織に指定しているヒズブッラーを評価するなどかなり不自然なところも見られるものの、全体的にはこれまでのカタルの外交立場から考えるとこうした見解を表明したとしてもおかしくないと信じられる発言ラインで構成されており、演説の存在の事実に信憑性を与えている。

 サウジやUAE、バハレーンとカタルとの外交政策の相違による関係の緊張化はこれまでにも表面化したことがあり、2014年には3カ国がカタルから大使を召還する事態に発展した。他方、今回大きく異なるのは、カタル政府は首長の演説の事実を全面否定しており、外部によるハッキングがあったと主張していることだ。2014年の大使召還の際にはクウェイトが仲介に入り、両者の和解に至った。24日夜のタミーム・サバーフの電話会談においても同様の対応を協議したと見られ、場合によっては事態は早々に収束することになろう。

(研究員 村上 拓哉)

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