中東かわら版

№36 バハレーン:治安部隊による抗議活動の取り締まり

 5月23日朝、バハレーンの治安当局は、マナーマ西部のディラーズにおいて抗議活動の取り締まりを行い、286人を拘束したと発表した。Reutersなどは、拘束の際に5人の死者が出たとバハレーン内務省が発表したと報じているものの、現在内務省から出されている声明文にはそのような記述はない。他方、内務省は、「テロ組織のメンバー」が、「爆弾や金属棒、ナイフ、斧などを治安当局に投げつけてきたため、これに対応する措置をとった」と説明している。

 バハレーンでは、5月20日に、国内最大のシーア派政治団体ウィファークの指導者であり、現在服役中のアリー・サルマーンに対し、刑期を1年間延長する判決が下された。これを受け、ディラーズにあるアリー・サルマーンの自宅周辺に人々が集まり、当局に対する抗議活動が続いていた。

 

評価

 バハレーンでは2014年末以降、ウィファークに対する締め付けが強まっており、2014年12月にアリー・サルマーンを拘束、2015年6月には暴力を扇動したとして懲役4年の判決が下されていた。以後、2016年5月には控訴審で懲役9年と刑期が延長し、6月には国籍の剥奪が決定された。ウィファークに対しても、同じく6月に解散処分が下されている(それぞれの詳細は以下を参照。「バハレーン:ウィファーク指導者に懲役4年の判決」『中東かわら版』No.42(2015年6月17日)「バハレーン:控訴審でウィファーク指導者に懲役9年の判決」『中東かわら版』No.37(2016年5月31日)「バハレーン:ウィファークに解散処分」『中東かわら版』No.49(2016年6月15日)

 これまでも抗議活動はたびたび発生してきたが、仮に5人の死者の発生が事実であるとすれば、近年では比較的規模の大きい衝突が発生したことになる。また、この報道が事実でないとしても、同様の事態が今後起きる可能性は非常に高い。

 バハレーン当局による強硬姿勢の背景には、こうした措置を支持するサウジアラビアなどの存在や、かつては厳しい批判者であった欧米諸国の批判が低調になったことが考えられる。2011年の「アラブの春」に際しては、米国はバハレーンに武器禁輸措置を発動するなど実質的な対応をとったものの、近年は形式的な懸念の表明にとどまっていた。さらに、トランプ政権が発足した現在、懸念の表明すらされなくなっている。先のトランプのサウジ訪問においても(詳細は「サウジアラビア:トランプ米大統領の来訪」『中東かわら版』No.34(2017年5月23日)、5月22日にトランプ大統領はバハレーンのハマド国王と会談し、「これまでは(両国関係に)小さなひずみがあったものの、我々の政権とはそのようなひずみはもう生じないだろう」と述べている。トランプ政権はバハレーンに対しF-16戦闘機19機を50億ドルで売却することに承認を与えており、バハレーン国内の政治問題や人権問題に対する米国政府の関心は低下している。

(研究員 村上 拓哉)

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