中東かわら版

№35 イスラーム過激派:マンチェスターでの爆破事件

 2017523日朝(日本時間)、イギリスのマンチェスター市のコンサート会場付近で爆破事件が発生した。事件により、本稿執筆時点で22人が死亡した。警察の発表によると、実行犯は1名で、その場で死亡した。事件について、「イスラーム国 ブリタニア」名義の犯行声明と、「イスラーム国」傘下の自称報道機関「アアマーク」の短信が出回った。

図1:「アアマーク」の短信
治安筋は、アアマーク通信に以下の通り述べた:イスラーム国の兵士1名が、イギリスのマンチェスター市で攻撃を行った。

 

図2:「イスラーム国 ブリタニア」の犯行声明

アッラーのご加護により、そしてアッラーの宗教のための復讐として、多神崇拝者へのテロ行為として、多神崇拝者によるムスリムの地への侵略に対する反撃として。カリフの兵士の一人が、マンチェスター市の十字軍の者たちの集団の中に複数の爆弾を仕掛けることに成功した。そこで、恥知らずの祝祭のための「アリーナ」の建物で複数の爆弾が爆発した。これにより、十字軍の者およそ30人が死亡、70人が負傷した。次は十字軍の者やその仲間たちにとって、より激しく、より悪くなる。

 

評価

 「アアマーク」の短信については、当初「治安班が攻撃を実行した」との内容が「兵士1名が」に差し替えられたようである。また、捜査当局は犯人1人による自爆であると発表しているが、短信、犯行声明のいずれにおいても自爆を示唆する表現は含まれていない。このような状態は、「イスラーム国」側は犯人のみが知りうる事実を情報として持っていると解釈することもできようが、出撃動画や犯人の演説のような、より説得力のある材料を早期に提示できなければ、短信も声明も既出の報道を後追いして作文したに過ぎない可能性が強まる。この点は、犯行についての捜査情報の管理・発表のあり方に「イスラーム国」の広報の効果を減退させる鍵があることを示している。

 また、攻撃の時期、対象、意図について、短信も声明もほとんど説明らしい説明をしていない。短信はほとんどの場合定型化されているが、今般の短信はその定型に含まれている「同盟国の国民を攻撃せよとの呼びかけに応えたものである」との文言が抜け落ちており、短信の広報効果を低下させている。爆破事件の攻撃対象や意図について説明する、または意思表示する立場にあるのは攻撃を実行したと主張する「イスラーム国」の側であり、それ以外の主体が類推や憶測に基づいて事件について推論しても、生産的な行為にはならないだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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