中東かわら版

№34 サウジアラビア:トランプ米大統領の来訪

 5月20日から22日、トランプ米大統領がサウジアラビアを訪問した。トランプにとって大統領就任以来初の外遊であり、米国大統領が最初の外遊先にサウジアラビアを選ぶのは初めてのこと。

 同大統領はサルマーン国王、ムハンマド・ナーイフ皇太子、ムハンマド・サルマーン副皇太子とそれぞれ会談したほか、GCC諸国との首脳会議、イスラーム諸国55カ国との首脳会議を行った。イスラーム諸国との首脳会議では演説を行い、イスラーム諸国との友好関係の構築、過激派の撲滅、イランの孤立化などを訴えた。また、過激思想対策グローバル・センター(GCCEI)開所式に出席した。

 また、米国からサウジへ1097億ドルの武器売却について合意が結ばれた。単一の武器売却契約としては米国史上最大の規模となる。なお、米国からサウジへの武器売却については、今後10年間で3500億ドルの規模になる見通し。このほか、アラムコが複数の米国企業と総額500億ドル規模の契約を結んだほか、サウジの公的投資基金(PIF)がブラックストーン・グループとそれぞれ200億ドル出資し、米国でのインフラ事業に投資することなどで合意している。詳細は一部不明なるものの、米国政府はサウジとの商業投資については総額2500億ドルに達すると発表している。

 

評価

 トランプのサウジ訪問は、トランプ政権がサウジに望んでいることと、サウジが米国に望んでいることがうまく噛み合うかたちで実現したと言うことができるだろう。トランプは選挙キャンペーンの最中から、サウジを始めドイツや日本などの同盟国に対して、同盟の負担を担うよう要求しており、また、国内向けには雇用の創出を重要な政策課題に掲げていた(詳細は「湾岸:トランプ政権誕生が湾岸地域に与える影響(2)」『中東かわら版』No.160(2017年1月18日)。今回結ばれた巨額の武器契約は、トランプにとっては同盟国による金銭的な負担の請け負いと、自国での雇用創出に向けた成果として喧伝できる材料であり、好ましいものといえる。

 他方、サウジアラビアは、自国の人権問題やイエメン紛争に関連して欧米諸国からの武器の調達が滞ることがあり、オバマ政権下の米国でも精密誘導弾の供与が停止されるということがあった。トランプ政権はサウジなど湾岸諸国への武器移転に関しては積極的に進めていく方針であり、サウジからは歓迎すべき動きと見られている。トランプの来訪に先立ち、PIFは「サウジ軍事産業会社(SAMI)」を設立することを発表しているが、こうした海外からの武器購入においては生産の一部をサウジ国内で行う方針が示されている。サウジの「ビジョン2030」では軍事産業の立ち上げも目標に掲げられており、サウジとしてもこれを国内の雇用創出につなげたい思惑があると見られる。

 トランプ政権との関係の構築については、トランプ本人および周辺の人物らによる反イスラーム的発言が懸念されていたが、今回のイスラーム諸国との首脳会議における演説では、過激派とイスラームを全く別物として考える旨を繰り返し主張し、「テロの犠牲者の95%はムスリムである」と述べるなど、全体的にイスラーム諸国への配慮が見られる構成となっていた。今回の首脳会議は実質的な議論というより象徴的な意味合いが強いものであったが、大統領就任前からあったトランプ政権との関係構築への不安を払拭したという点では意義があったと評価することもできよう。

 その一方で、今後、米国の中東政策が具体的にどのようなかたちで進んでいくかについては、依然として不透明な部分が残されている。テロ対策における諸外国との協力、イランの孤立化という方針は示されたものの、これらの問題において米国がどのような役割を担うかは明らかではない。一つには、今回の訪問にも現れているように、サウジアラビアに地域の主導国として問題の解決にあたらせるということが考えられよう。今回のサウジ訪問では、イエメンにおけるサウジの介入を称賛し、オバマ政権時代に米国・湾岸諸国の関係冷却化の原因となったバハレーンに関しても、関係を改善していく方針が示された。サウジを始めとするGCC諸国へのテロ対策についても肯定的な評価が下されている。

 もっとも、こうした米国の期待とは裏腹に、サウジの国益は必ずしも米国と一致しておらず、特にシリア紛争における両者の目標には大きなずれがある。対イランに関しても、トランプ政権から厳しい発言は出てくるものの、実際に行っている政策はオバマ政権時代から行われているものを踏襲しているだけに過ぎず、サウジが満足するレベルには達していない。今後、こうした認識の相違が大きくなり、今回演出された親密な関係が冷え込んでいくことになるのか、あるいはトランプ政権の中東政策が変化していくことになるのか、注視する必要があるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP