中東かわら版

№25 オマーン:財政危機と中国による融資

 原油価格の下落により財政危機に直面しているオマーンでは、中国の資金流入が拡大している。5月9日、銀行関係者は、オマーン政府が中国の銀行3行から、36億ドルを5年一括返済ローン(金利1.90%)として受けることを検討しており、6月12日に契約に署名する予定であることを明らかにした。

 オマーン政府は2016年に50億リヤール(約130億ドル)の財政赤字となっており、2017年も33億リヤールの財政赤字を見込んでいる。歳出は117億リヤールを見込んでいるため、歳入の4分の1以上を外部から獲得しなければならない計算となる。財務省は、21億リヤールを海外から、4億リヤールを国内から借り入れ、5億リヤールは準備金から取り崩す予定であると発表していた。一方で、2016年3月にはStandard & Poor’sがオマーンの格付けをBBB+から2段階引き下げBBB-とし、Moody’sは同年2月にオマーンの格付けをA1からA3へ、5月にはA3からBaa1まで引き下げており、投資環境の急速な悪化が懸念されていた。

 こうした状況にも関わらず、中国はオマーンに対して積極的に投資する姿勢を打ち出している。2016年5月には、オマーンの開発計画の中核的事業であるドゥクムの開発に関して、107億ドル規模の工業団地を建設することで合意した。また、同年12月、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)は、ドゥクム港のインフラ開発に2億6500万ドル、鉄道に3600万ドルの融資を行うことを決定している。AIIBは2016年6月に初の融資プロジェクトを成立させて以来、2017年5月までに13件のプロジェクトを成立させているが、このうち2件がオマーンの案件ということになる。

 

評価

 オマーンは湾岸産油国のなかでは準備金が少なく、原油価格下落に強く影響を受けると指摘されてきた。財政赤字の増大により、当面の資金不足という問題に直面するなか、燃料や電気への補助金削減といった歳出の抑制に加え、法人税の引き上げ、国債の発行に踏み切るなど、歳入の拡大や資金調達先の多角化に努めてきた。

 海外からの融資も積極的に受け入れる方針であるものの、欧米諸国のオマーンへの投資意欲は減退気味である。こうしたなか、中国は戦略的にオマーンへの進出を図っている。ホルムズ海峡の外側に位置し、インド洋に面するオマーンは、中国の「一帯一路」政策に組み込まれうる地理的環境にある。ドゥクム港は大型艦船の整備が可能なドライドックを備えており、中国海軍による将来的な軍事利用の可能性も指摘されている。オマーンにとって中国は原油の最大の輸出先であるが、更にこうした財政支援も受けるようになれば、中国のオマーンに対する影響力は飛躍的に高まることになるだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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