中東かわら版

№24 チュニジア:中・南部での抗議行動に対して軍を展開

 5月10日、シブシー大統領は、中・南部で数週間続いている若者の抗議行動を鎮静化するため、今後、軍が石油・天然ガス施設などの重要施設を守ると発表した。これは、国家安全保障評議会での協議によって決定された。4月からタタウィーン県やケビリー県では、若者の集団が石油・天然ガス企業に雇用を求めて座り込みや道路の封鎖を続けており、生産停止に追い込まれる企業や安全のため従業員を退避させる企業が現れた。これらには海外資本の企業も含まれている。4月末にはシャーヒド首相がタタウィーン県を訪問し、抗議参加者に向けて同県の開発政策や雇用創出対策を発表したが、若者の首相に対する野次が酷く、会合を中断せざるをえない状況に追い込まれた。

 シブシー大統領は軍の展開を発表するのと同時に、国家は今後も民主主義を守り続けること、対話でのみ社会経済的問題が解決されうることを強調した。ただし法の範囲内で市民は抗議する権利を有するとし、国益を損ない、社会の分裂を促すような抗議は許されないと述べた。与野党、チュニジア労働組合総同盟(UGTT)は中・南部での抗議に理解を示し、広範な国民的対話で解決する必要があるとの考えを共有しているようである。

 チュニジアにおける2016年の失業率は15%で、若者の失業率は30%を超えている。特に中・南部の開発が遅れており、都市部に比べて失業率が高い。

 

評価

 若者の失業問題は、チュニジア政治を不安定にさせている構造的問題の一つである。2011年以降、中・南部で断続的に若者の抗議は起きていたが、抗議鎮圧のために軍が展開されることは初めてである。政府が軍の出動を決定した理由は、国家収入にかかわる重要施設の保護という目的の他に、イスラーム過激派や密輸業者が多く潜む中・南部地域で騒動が継続することによって、騒動がこれらの非合法集団に利用されるのを回避するためでもあろう。

 2011年以降、政府は中・南部の地域開発や雇用促進政策を打ち出してきたが、若者の失業率が低下する実績をまだ出せていない。労働市場が求める人材と若者の労働力としての質がミスマッチな状態であること、投資環境の悪さ、民間部門の労働力吸収能力の弱さなど、様々な構造的問題が存在する。これらの構造改革は、2011年以降の政変の継続や頻発するテロ事件などで進んでいない。

 チュニジアは民主化には成功したものの、その民主主義は極めて不安定な土台の上にあり、若者の社会経済的問題を解決せずに安定した民主主義の運営は期待できない。今回の危機においても、政府、与野党、労働組合、経済団体による対話と合意形成というチュニジア的な方法が用いられるのか、またどの程度の解決をもたらすのか注目される。

(金谷研究員)

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