中東かわら版

№23 パレスチナ:ハマースの新憲章発表と新指導者選出

 

 2017年5月1日、ハマースのミシュアル政治局長は、カタルのドーハで記者会見を行い、ハマースの新憲章を発表した。続いて6日には、ハマースのシューラー(諮問評議会)は、政治局員(18人)の選挙を行い、新政治局局長にイスマイル・ハニーヤ政治局次長を選出した。ハマースが、新憲章を採択したのは1987年末の組織創設以来初めてであり、政治局の局長が交代するのは21年ぶりになる。

 ハマースの新憲章については、今年の3月頃からメディアが取り上げていた。新憲章を発表したミシュアル政治局長は、ハマース内部で過去4年間の協議を経た結果だと述べているが、決定までのプロセスは公表されていない。新綱領からは、ハマースはエジプトのムスリム同胞団のパレスチナ支部とされた部分が削除されている。複数のハマース幹部は、新憲章はアラブ諸国、パレスチナ人向けにハマースの立場を示すものだと発言していた。イスラエルについては、イスラエルを破壊するとの表現は削除されたが、その存在を認めないとしており、イスラエルに対する基本的な立場は変わっていない。67年戦争開始前の境界線を国境として、エルサレムを首都として西岸・ガザでパレスチナ国家の創設を考慮するとしたが、パレスチナ全土を解放はあきらめないとの主張も併記されており、この点でも立場の大きな変化はなかった。またオスロ合意については、同合意及びその後の諸合意も認めないとした。イスラエルは、新綱領について世界をだますための文書と非難した。

 イスマイル・ハニーヤが政治局局長に就任することは、すでに昨年から取り沙汰されていた。20年以上政治局長ポストにいたミシュアルは2016年になり、次の局長選挙には立候補しないと明言していた。ハニーヤは、政治局局長就任のため昨年夏には、ガザからカタルに移動していたが、2017年1月末には一旦ガザに戻っていた。その後、2月13日には、ガザ地区の政治局局長にヤフヤー・サンワールが選出されていた(「中東かわら版」2.14「ガザのハマースが新指導者を選出」)。報道では、ハニーヤは、ハマースの政治局局長に就任した後も当面はガザに留まる。

評価

 ハマースの新憲章は、表現はやわらかくなったがイスラエルに対する立場に変化はなかった。そのためイスラエル側は、新憲章についてまったく評価していない。エジプトのムスリム同胞団との関係部分を削除したのは、シーシー政権に対する配慮であり、エジプト及び湾岸のアラブ諸国との関係改善のためだろう。

 ハマースは、パレスチナ全土の解放を目標に掲げ、93年のオスロ合意とそれ以降の諸合意を認めていない。この立場を取る限り、ハマースはオスロ合意の成果であるパレスチナ自治を拒否し、自治政府とは距離を取る必要がある。ハマースは、当初、パレスチナ自治政府の選挙には参加しなかった。しかし、2006年になりハマースはパレスチナ自治政府の選挙に参加した。パレスチナ自治政府、イスラエル、米国は、ハマースが自治政府の選挙に参加して勝利し、政権を樹立するのであれば、オスロ合意及びその後の諸合意を認めるよう求めた。しかし、ハマースは、これに応じず、オスロ合意及びその後の交渉がもたらした政治的な成果の恩恵は享受するが、これらの合意は認めない立場を取った。これが、ガザのハマース政権が孤立している根本原因である。

 ハマースの新指導部が、今後現実的な対応をするようになるかどうかはまだ未知数である。ただ新政治局長ハニーヤはガザで生まれ、ガザで育った政治家である。ガザが置かれている状況は熟知しており、67年戦争の時、11歳で西岸を離れた後、占領地に住んだ経験のないミシュアル前政治局長とは違う判断をするかもしれない。ファタハ側には、政治対話と国民和解の促進について、現実派のハニーヤに対する期待があるようだ。5月8日、新政治局長に就任したハニーヤは、最初の公の行事としてイスラエルの刑務所で集団ハンストを続けている囚人たちを支援する集会に参加した。ハマースは組織としてハンストに参加していないので、ファタハとの連帯を示す行動と理解していいだろう。今、ハマースが進めるべきことは、ファタハとの政治協議の再開であり、ハニーヤの動きはそれを見据えた行動かもしれない。 

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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