中東かわら版

№21 パレスチナ:アッバース大統領の米国訪問

 2017年5月3日、パレスチナ自治政府(PA)のアッバース大統領は、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した。両者の直接会談は、今回が初めてである。トランプ大統領は、共同記者会見で、中東和平交渉を仲介する意欲を改めて表明し、アッバース大統領は、トランプ大統領と和平を進めることに同意したと述べた。両首脳は、中東和平に対する前向きの姿勢を表明したが、具体的な議論については触れなかった。同首脳会談の後、ホワイトハウスのスパイサー大統領報道官が行なった記者会見でも、両者が具体的にどのような協議をしたかについての言及はなかった。アッバース大統領は、会談後、詳細や交渉のメカニズムについては議論しなかったと述べている。

 今回のアッバース大統領のホワイトハウス訪問は、両首脳が3月10日に電話会談した際に合意された。その後3月中旬にはトランプ大統領の国際交渉担当特別代表ジェイソン・グリーンブラットが中東を訪問してアッバース大統領などと会談したほか、4月23日には、PLOのエラカート事務局長らがアッバース大統領訪米の事前調整のため米国を訪問していた。アッバース大統領は、5月1日から米国を訪問、ペンス副大統領、ティラーソン国務長官、NSCのマックマスター補佐官らと会談している。今回、アッバース大統領に同行したのは、ファラジ諜報長官、パレスチナ投資基金会長ムハンマド・ムスタファー、エラカートPLO事務局長、アムル副首相などである。

 アッバース大統領と会談した翌4日、トランプ大統領は、サウジアラビアとイスラエルを訪問すると発表した。同大統領は、最初にサウジ、次にイスラエル(5月22日予定)を訪問し、5月24日にバチカンでローマ法王と会談する予定である。その後トランプ大統領は、25日にNATO首脳会議(ベルギー)に参加し、イタリアのシチリアで開催されるG7首脳会議(5月26~27日)に参加する。

評価

 アッバース大統領と会談したトランプ大統領は、改めて中東和平交渉を再開させ、当事者による直接交渉で合意に至らせることに対する強い熱意と自信を表明した。アッバース大統領も、トランプ大統領の熱意を歓迎した。しかし、両者がどのような議論をしたか、あるいはトランプ政権側にどのような政策案があるかなどは、明らかにされなかった。またトランプ政権の中で、誰が中東和平問題を担当しているのかも、まだはっきりしない。トランプ大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相(2月15日)、ヨルダンのアブドッラー2世国王(2月2日、4月5日)、エジプトのシーシー大統領(4月3日)と会談しており、今回のアッバース大統領との会談で、中東和平交渉当事者及び関係国首脳との一連の会談を終えたことになる。米国の政策は依然不明であるが、トランプ政権は、イスラエルとパレスチナだけでなく、ヨルダンとエジプトあるいは湾岸のアラブ諸国が参加する形で交渉の再開を考えているとの憶測報道がある。他方、4月30日の米『ワシントン・ポスト』紙は、アッバース大統領の米国訪問の事前調整のために4月下旬にワシントンを訪問したパレスチナ代表団は、国務省やホワイトハウスの担当者たちが、トランプ大統領が何を考えているか分かっていないと感じたと報道している。

 トランプ大統領が、中東和平交渉再開のためにどのような政策を考えているかはまだ明らかではないが、イスラエルもパレスチナも、トランプ大統領の素早い動きに翻弄されることになるかもしれない。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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