中東かわら版

№19 「イスラーム国」の生態:麻薬取引による資金獲得

 2017年4月26日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本)は、「イスラーム国」がイラクとシリアで大麻の栽培・販売で資金調達していることにつき要旨以下の通り報じた。

 ・(諜報高官筋によれば)「イスラーム国」は、イラクのニナワ県等での石油収入が減少した後、麻薬取引を行っている。麻薬取引は同派の主な収入源になっており、アンバール県は取引管理の中心地になっている。「イラクのパブロ・エスコバル」と呼ばれる人物が、この取引の中心にいる。

・(テロ組織の専門家の話によれば)「イスラーム国」は、バグダード北部ブール・キーバ、バグダード南部ラティフィヤ・シャーハート、アンバール県とバービル県間のアウィーサート、タル・アファル(モスル西部)、ニナワ県バジ・サッカール村、ディーヤーラー県北東のハムリーン峡谷地域、ディーラー県ブフリズ・バラーイズで、大麻を育てている。

・「イスラーム国」は大麻の知識を持たない占拠地域内の住民の無知に付け込んでいる。また、タクフィール(不信仰者宣言)主義グループのフィクフ(法学)で言われる「不信仰者に毒を売る許可」というファトワーを出して麻薬を販売している。

・ (上記専門家の話によれば)アル=カーイダと「イスラーム国」下のアフガン人戦闘員が、麻薬の栽培をイラクのスンナ派地域に導入した。またイラン人がイラク南部のシーア派に対し、麻薬の栽培を教えた。

・(諜報高官筋の見解によれば)麻薬の流通経路は二つある。第1に、アル=カーイダが利用している経路であり、アフガニスタン→パキスタン→イラン→イラク→シリアと至る。麻薬の一部は湾岸諸国に流れる。第2に、「イスラーム国」の使う経路であり、アル=カーイダの経路と利害衝突しないようにできている。イラク→シリア→トルコ→ヨーロッパの経路である。また、ラマーディーから同派の占拠するカーイムに流れる経路もある。

・(上記筋によれば)麻薬はシリアとイラクの国境を通じてカーイムに入り、そこからアンバールの砂漠地帯を通る。そして、カルバラー県のナジーブ区とラマーディー西部35キロ地点の二つの地域で荷下ろし、計量、流通、販売される。これらの作業は家畜販売で偽装される。

・(同情報筋の見解によれば)麻薬商人と治安機関の間で、麻薬の移動や逮捕の防止といった便宜供与を目的とした買収が数百万ドルの規模で行われている。

評価

 従来「イスラーム国」は、占拠地域において麻薬に加えタバコやアルコールなど娯楽に関わる物品をハラームとみなして焼却し、所有者をハッド刑に処してきた。他方、「イスラーム国」の占拠地域は減少傾向にあり、それに伴い利用できる資源も縮小しているとされる。こうした事情を考慮すれば、「イスラーム国」が「ハラーム」(禁忌)の枠で捉えていた大麻を、その育成・流通・販売を「敵方を毒す」という論理で「ハラール」(合法)とみなすことは十分起こりうるだろう。一方、大麻は占拠地域でも出回っているとされることから、占拠地域内の住民も大麻を得やすくなるだろう。しかし、これまでの同派の営為を見れば、占拠地域の住民が大麻を所有することは紛れもなく「ハラーム」であり、ここに大麻をめぐる二重基準が見られる。この点、イスラームに基づく理想の生活といった同派の主張は、ヒトやカネ等の資源を集め、組織を運営する際の手段に過ぎないといえる。

 上記のことを踏まえれば、同派の名義で日々配信され、カリフ制や理想のイスラームを謳う画像や映像、声明が、現地における同派の行為を隠蔽するプロパガンダであることは明白である。だとすれば、プロパガンダで謳われる「カリフ制」や「理想のイスラーム」を鵜呑みにして、それらが「イスラーム国」に人々を向かわせると想像、主張すること、またはその逆に、カリフ制等の主張の下支えとして「イスラーム国」のプロパガンダを利用すること、どちらの場合も、同派の広報活動を助長する点でさしたる違いはない。

 なお、大麻の耕作者、末端の商人、購入者などの情報については、今般の報道では触れられておらず、「イスラーム国」と金銭的なつながりがある者が、どれだけいるかは不明である。

 占拠地域や支持者の減少にともない利用可能な資源が縮小されていくと予想される。そうした状況下において、「イスラーム国」がこれまでハラームと称してきた物品や行為、慣習をハラールとして正当化する方便や行為に注目することで、現地の実態の一端を把握することができよう。

 

 

(イスラーム過激派モニター班)

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