№18 パレスチナ:集団ハンスト支援の呼びかけ
2017年4月17日に開始されたパレスチナ人囚人による集団ハンストが、継続中である。ハンストに参加した人数は、パレスチナ側の発表では1500人前後、イスラエル側の数字では1000人前後である。今回の集団ハンストは、ファタハの指導者マルワーン・バルグーティが主導していることもあり、ハマースは組織としてはハンストに参加していない。ハンスト開始から9日を経過した段階で、ハンストを中止する者、体調を悪化させ入院する者が出始めている。
4月21日、集団ハンストを支援するため、ファタハは4月28日を「怒りの日」と指定し、西岸の住民にイスラエル軍と衝突するよう呼びかけた。また25日には、「ハンストを支援する国民会議」名で、イスラエル製品のボイコットの呼びかけが行なわれた。
評価
パレスチナ側の報道によれば、現在イスラエルの刑務所に服役しているパレスチナ人囚人は約6500人で、内ファタハ及び左派系の政治組織のメンバーが約57%(3705人)、ハマースのメンバーが30~35%とされる。パレスチナ側の主張するようにハンスト参加者が1500人程度であれば、収監中のファタハのメンバーの4割前後が参加していることになる。集団ハンストはまだ開始されたばかりであり、イスラエル当局と囚人側との政治交渉はこれからだろう。他方、刑務所の外では、ハンスト支援のための行動の呼びかけが活発化している。
4月21日、ファタハは28日を「怒りの日」に指定して、西岸の住民にイスラエル軍との衝突を呼びかけた。28日金曜日は、集団礼拝の日であり、パレスチナ側の休日である。労働者は、職場を休むことなくデモに参加できる。28日に実際にどの程度の住民が、ファタハの呼びかけに応えるかは未知数であるが、ファタハの呼びかけは住民参加型の政治運動への呼びかけである。また25日に行なわれたイスラエル製品不買運動も、呼びかけの主体は違うが、こちらも同じ種類の呼びかけである。
西岸では、2015年秋頃から単独犯による、突発的な暴力事件が増加した。一匹狼的な行動を防止することは難しく、イスラエル人の死傷者が増えた。他方、このような暴力の増加に対応するためイスラエル軍は警備の強化を行なったが、大量の兵力を西岸に投入するには至らなかった。今回ファタハが呼びかけているのは、単独行動ではなく集団的な抗議運動である。パレスチナ住民が、西岸各地で、集団でイスラエル軍との衝突を起こすようになれば、イスラエル軍は、かなりの兵力を住民鎮圧に投入することを強いられる。バルグーティは、イスラエル軍をこうした状況に追い込む伝統的な住民蜂起型の運動を主導した指導者である。西岸とガザで住民蜂起型の抗議運動が活発化したのは1987年末から1990年代初めまで行なわれた第一次インティファーダである。その後、住民参加型の運動は亜流となり、武器を使用した武力闘争が主体になったが政治的な成果をあげるどころか、ことごとく失敗している。今後、囚人たちの集団ハンストを支援する動きが、西岸で活発化するかどうかを注視する必要があるだろう。住民の抗議行動が活発化するようであれば、その政治的な影響力は、集団ハンストよりはるかに大きなものになる。
(中島主席研究員 中島 勇)
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