中東かわら版

№14 イラン:監督者評議会が大統領候補者6人を選出

 4月20日夜、監督者評議会は5月19日に実施される大統領選に立候補する資格のある候補者6人を発表した。現職のロウハーニー大統領、保守強硬派のライーシー前検事総長、ガーリーバーフ・テヘラン市長らの立候補が認められた。他方、アフマディーネジャード前大統領と、アフマディーネジャードが支持していたバガーイー前行政担当副大統領の立候補は認められなかった。

 立候補が認められた6人は以下のとおり。

・モスタファー・ミールサリーム元文化・イスラーム指導相(1994-1997):保守強硬派

・エスハーク・ジャハーンギーリー第一副大統領(2013-):保守穏健派

・ハサン・ロウハーニー大統領(2013-):保守穏健派

・エブラーヒーム・ライーシー前検事総長(2014-2016):保守強硬派

・モハンマドバーゲル・ガーリーバーフ・テヘラン市長(2005-):保守強硬派

・モスタファー・ハーシェミータバー元副大統領(1994-2001):改革派

 

評価

 一週間前に突如として立候補を表明し、内外のメディアを驚かせたアフマディーネジャード大統領は立候補が認められなかった。また、同人が支持を表明していたバガーイー前行政担当副大統領の立候補も同じく認められなかった。(アフマディーネジャードの立候補については「イラン:アフマディーネジャード前大統領が大統領選に立候補」『中東かわら版』No.9(2017年4月13日)を参照)。現時点ではアフマディーネジャード側からいかなる声明も出ていないが、異議申し立てによって出馬が認められる可能性も低いことから、このまま大統領選からは撤退することになるだろう。もっとも、アフマディーネジャードとしては立候補表明を通じて自身の影響力が依然として大きいことを確認できたため、今後も政治活動を継続していくものと見られる。

 順当に手続きが進めば、次期大統領選は上記の6人で争われることになる。最有力候補は現職のロウハーニー大統領である。ロウハーニーは保守穏健派、改革派の主流派から支持を受けており、立候補が認められたジャハーンギーリー第一副大統領もロウハーニー支持を表明しているため、ジャハーンギーリーは然るべきタイミングで選挙戦から撤退するものと見られる。保守強硬派の主流派はライーシー前検事総長を推しているものの、過去に2度大統領選に出馬し、いずれも10%以上の票を集めているガーリーバーフ・テヘラン市長が出馬を表明していることで、このままでは保守強硬派内で票が割れることになる。ライーシーはハーメネイー最高指導者に近いと指摘されており、次期最高指導者とするために大統領選への出馬が促されたという見方もあるものの、現時点でハーメネイーは積極的に選挙に介入する動きを見せていない。

 6人の候補者が確定する前のデータであるが、4月17日にカナダの独立系世論調査機関であるIranPollが、4月11日と14日にイラン人1005人に対して行った電話による世論調査の結果を発表している。同調査によると、4年前との自身の経済状況の変化については、「改善した」が11%であったのに対し、「悪化した」は35%、「変化なし」は51%となっているほか、国家の経済についても「良い方向に向かっている」が31%、「悪い方向に向かっている」が52%と、悲観的な見方が多数派となっている。また、核合意後の一般的な人々の経済状況については、「非常に改善した」、「ある程度改善した」、「若干改善した」が合わせて25%であるのに対し、「改善しなかった」が72%と、ロウハーニー政権の政策が十分に評価されてないことが示されている。

 他方で、対抗馬となりうるライーシーは知名度不足という問題を抱えている。上記のIranPollの調査では、ライーシーの印象について「非常に好ましい」、「やや好ましい」が計32%、「やや好ましくない」、「非常に好ましくない」が計22%に対し、「個人を知らない」が46%と突出している。なお、ロウハーニーは「非常に好ましい」、「やや好ましい」が計62%、「やや好ましくない」、「非常に好ましくない」が計35%、「個人を知らない」が3%であり、ガーリーバーフは「非常に好ましい」、「やや好ましい」が計67%、「やや好ましくない」、「非常に好ましくない」が計25%、「個人を知らない」が8%となっている。

 従って、保守強硬派がロウハーニーに勝利するためには、ライーシーにせよガーリーバーフにせよ、保守強硬派内で候補者を一本化すること、国民の経済状況改善に向けた具体的な政策を示すこと、大々的な選挙キャンペーンにより知名度を高めることが必要となる。ライーシーは4月18日にロウハーニーとイラン国営テレビに向けて公開書簡を発出し、ロウハーニー大統領の演説ばかりを報道することは選挙戦の公正性を損なうものとなるという主旨のことを主張しているが、これは選挙戦の一環として、自身の知名度不足を不公正な報道に責任転嫁することで有権者からの同情を集めることを目論んだものであろう。

 イラン国外に目を向けると、米国の動向は大統領選に影響を及ぼしうる。特に核合意関連で米国が新たな制裁を発動すれば、これを推進してきたロウハーニーは国内で保守強硬派から強い批判にさらされることになる。米国では、4月18日付の国務省から下院宛の公開書簡において、トランプ政権は国家安全保障会議(NSC)に核合意の見直しを指示していることが明らかにされた。これに関連し、ティラーソン国務長官は19日の記者会見で、核合意はイランのテロ支援や地域を不安定化する行動に対処することができていないとの見解を示した。トランプ政権がイラン核合意に批判的な立場であることは従来から知られていたが(詳細は「湾岸:トランプ政権誕生が湾岸地域に与える影響(2)」『中東かわら版』No.160(2017年1月18日)を参照)、見直しの作業に着手していることが公文書で確認されたのは今回が初めてのことである。他方で、今回の米国の対応は、当初想定されていたよりもかなり控えめなものである。18日の公開書簡では、イランが核合意を遵守していることも同時に確認しており、核合意の見直しについても具体的にどのように進めるのか、見直しの結果がいつ発表されるかも言及されなかった。ロウハーニー大統領やザリーフ外相は米国の一方的な措置を批判したものの、現時点では形式的な論争の枠を出ておらず、双方とも抑制的な対応にとどまっている。今のところ、米国の対応がロウハーニーの再選を妨げることはほとんどないと言えよう。

(研究員 村上 拓哉)

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