中東かわら版

№12 トルコ:国民投票の実施

 4月16日、大統領権限の強化に向けた憲法改正の是非を問う国民投票がトルコ全土で実施された。大方の予想通り改憲を支持する「Evet(Yes)」が51.21%(『Cumhurriyet紙』)の過半数を獲得し、憲法改正が行われる見通しとなった。トルコ国内では事前の世論調査で、僅差ながら憲法改正派が勝利する見通しを伝えていた。同結果は想定通りとはいえるものの、エルドアン大統領のお膝元である、アンカラ(Yes 48.89%/No 51.11%)、イスタンブル(Yes 48.65%/No 51.35%)ではともに改憲反対派が上回った。

 賛成が過半数を獲得した投票結果に対し、最大野党の共和人民党(CHP)は、選挙結果に不正がある可能性をトルコ選挙管理委員会(YSK)に訴え、票の再集計を求めていたが、17日、YSKは不正があった可能性を否定した。親クルド系政党の人民の民主主義党(HDP)も選挙結果に異議を申し立てている。さらに、欧州安保協力機構(OSCE)や欧州評議会から構成される国際投票監視団は、有権者に十分な情報が与えられておらず、直前に規定が変更される等、「民主的な国民投票を行うための法的枠組みは不適切なままだった」として、同投票が国際水準を満たしていないとの見解を示している。

 エルドアン大統領は公邸で勝利宣言を行い、「トルコは歴史的な決断をした。外国や海外機関がトルコの決定を尊重することを望む」と述べた。 

評価

 象徴的な大統領ではなく行政権を行使できる大統領制の確立は、エルドアン大統領の首相時代からの悲願だった。「イスラーム国」やクルディスタン労働者党(PKK)によるものとみられる、国内で断続的に続くテロや、2016年7月に発生したクーデタ未遂事件、それに続く非常事態宣言の発令等、政情が不安定な状況下で行われた今般の投票で、国民はエルドアン大統領が主張するテロに屈しない強い姿勢と景気回復への期待を表した。

 だが一方で、拮抗した結果に現れているように、権力の一極集中によってトルコの民主化が後退することを懸念する国民の声も多数あった。特に、首都アンカラ、最大都市イスタンブル、イズミルの三大都市で反対が賛成を上回ったことは、国民のエルドアンの政治手法に対する警鐘ともいえよう。

(研究員 金子 真夕)

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