中東かわら版

№10 パレスチナ:イスラエルの刑務所で集団ハンストを開始

 2017年4月17日、イスラエル国内の刑務所に収監されているパレスチナ人囚人が集団で無期限のハンストを開始した。集団ハンストは、服役中のファタハ中央委員会委員マルワーン・バルグーティが「囚人の日」にちなんで呼びかけたもので、主目的は刑務所内の待遇改善である。バルグーティは、17日からのハンスト開始を呼びかけていたが、一部の囚人は16日夕方からハンストを開始している。ハンストには、ファタハだけでなく、ハマース、PFLPなど多くの政治組織メンバーが参加している。パレスチナ側は、現在、イスラエルの刑務所で服役しているパレスチナ人は6500人としており、今回のハンストに参加する囚人は1000~1500人に上ると報道されている。イスラエル側は、バルグーティをハイファ近くの別の刑務所の独房に移送したほか、ハンスト参加者を処罰するとしている。

 西岸各地とガザでは、ハンストに合わせて、囚人に連帯を示すデモが実施された。西岸では、各地でイスラエル治安部隊と若者が衝突している。またバルグーティは、米『NYT』紙(4月16日)に投稿(タイトル「Why We Are on Hunger Strike in Israel’s Prisons」)して、集団ハンストに至った理由と目的について説明している。

評価

 イスラエルの刑務所で服役中のパレスチナ人囚人がハンストを行うことは、そう珍しいことではない。そのため、イスラエル政府は、2015年7月末に、健康状態によってはハンスト中の囚人に強制的に食事を取らせることを可能にする法律を制定している。しかし、今回のような服役中の囚人の2割前後が集団でハンストを行うのは珍しい。パレスチナ人囚人の間でのマルワーン・バルグーティに対する信頼が高いこと、あるいは刑務所内の待遇に対する不満が広く共有されていることを示しているのかもしれない。個人あるいは少数の囚人によるハンストであっても囚人の人命保護や国際社会からの批判に敏感に反応するイスラエルにとって、1000人以上の囚人が参加するハンストは、対処の難しい政治問題となるだろう。

 イスラエルの刑務所で服役しているパレスチナ人囚人たちは、パレスチナ社会に対して強い影響力を持っている。囚人たちは、対イスラエル闘争での「英雄」である。また囚人たちの間には、政治組織の枠を超えた強い絆がある。刑務所内で構築された人間関係は、釈放された後も続いている。パレスチナ側は、1967年以来、イスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人は総計約80万人で、人口の約2割が収監された経験を持つとしている。元囚人たちや現在服役中の囚人らの家族が、刑務所内でのハンストと呼応して抗議行動を強化するかもしれない。西岸では、ここ数年、単独犯による突発的な暴力事件は頻発しているが、大規模な群衆がイスラエル軍・警察と衝突する事件はあまり発生していない。囚人の集団ハンストを支援するためのデモが、イスラエル治安部隊との衝突を繰り返す過程で、その規模を拡大させる可能

 また米国の主要紙であるNYT紙が、集団ハンストの首謀者であるバルグーティの投稿を、ハンスト開始に際して掲載したことは、国際社会にパレスチナ人囚人のハンストに対する理解や共感が存在することを強く示唆している。イスラエル国内では、バルグーティは、5つの終身刑を宣告されたテロリストであるが、アラブ世界や国際社会には「パレスチナのネルソン・マンデラ」とも評価されている。

 

 

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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