中東かわら版

№9 イラン:アフマディーネジャード前大統領が大統領選に立候補

 4月12日、アフマディーネジャード前大統領が5月19日に実施される大統領選に立候補を表明し、内務省において立候補手続きを行った。アフマディーネジャードは2016年8月にハーメネイー最高指導者と会談し、次期大統領選に出馬しないよう要請され、それに従うと述べていた。本件に関し、手続き後の記者会見でアフマディーネジャードは、最高指導者の発言は命令ではなく、助言だったと理解していると述べた。なお、一週間前の記者会見において、アフマディーネジャードはハミード・バガーイー前行政担当副大統領(兼大統領府長官)を支持しており、自身は立候補する予定はないと話していた。

 内務省が発表している大統領選の日程は以下のとおり。

 

4月11-15日 立候補受付期間

4月16-20日 監督者評議会による立候補者資格審査(期間が延長する可能性あり)

4月25-27日 最終候補者の発表

4月28日   選挙戦開始

5月19日   投票日

 

評価

 次期大統領選では、保守穏健派と改革派の支持を受ける現職のロウハーニー大統領の再選が有力視されていた。他方、競合する保守強硬派は、次期最高指導者候補と噂されていたエブラーヒーム・ライーシー前検事総長(現在マシュハドのイマーム・レザー廟を管理するアースターン・ゴドゥス・ラザヴィー財団理事長)や、過去に2度大統領選に出馬しているモハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ・テヘラン市長などの間で候補者の一本化を図ることができておらず、選挙協力に失敗してロウハーニーの後塵を拝することとなった2013年の大統領選を再現することになるのではないかと指摘されてきた。

 こうしたなか、アフマディーネジャード前大統領が立候補を表明したことは、選挙戦における台風の目になりうる。2005年から2013年の2期8年大統領を勤め上げたアフマディーネジャードは、未だに保守強硬派のなかで人気の高い政治家であり、地方や貧困層に対する知名度も抜群に高い。他方、2009年に緑の運動を弾圧された改革派のように都市部の中間層からは強く敵視されている人物でもある。そのため、2016年8月にハーメネイー最高指導者がアフマディーネジャードと会談した際、ハーメネイーはアフマディーネジャードが選挙に出馬すると国家に分断を生み出す恐れがあるとして、出馬を避けるよう要請していた(詳細は「イラン:アフマディーネジャード前大統領が次期大統領選に不出馬を表明」『中東トピックス』No.T16-06(2016年10月1日)

 現時点でハーメネイー側からコメントは出ていないものの、これまでの経緯を考えるとアフマディーネジャードの行動がハーメネイーの意思に反していることは明らかである。従って、監督者評議会による審査においてアフマディーネジャードの立候補は認められない可能性が高い。一方、イランでは核合意成立後も経済状況が想定よりも改善しておらず、ロウハーニーへの批判が強まるなか、資格審査で国民人気の高いアフマディーネジャードが排除されることになれば、これに抗議するデモが起きる可能性もある。

 アフマディーネジャードは大統領選に立候補した理由としてバガーイーを支援するためだと述べているが、その真意は不明である。もっとも、仮に立候補が認められなかったとしても、次の大統領選に向けて存在感をアピールすることができるという点で今回出馬表明したことに意味はある。そもそもアフマディーネジャード本人が出馬しないと明言しておきながら、立候補の可能性がメディアで取り沙汰され続けてきたのは、地方遊説に行ったり、Twitterアカウントを新たに開設して自身の意見を発信したりと、不出馬表明後も政治的影響力を保とうとする行動を続けていたからである。このため、アフマディーネジャードには政治的な野心があり、いつかの時点で政界復帰することを目論んでいるとみられてきた。しかし、大統領任期中にハーメネイーと対立した経緯から、ハーメネイー存命中にアフマディーネジャードが表舞台に復帰することは困難かもしれない。もっとも、77歳になり健康不安説もあるハーメネイーに対し、アフマディーネジャードは現在60歳であり、複数の選択肢を有していると言える。

(研究員 村上 拓哉)

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