中東かわら版

№8 エジプト:コプト教会連続爆破と非常事態宣言の発令

 4月9日、ガルビーヤ県タンタ市とアレキサンドリア県マンシーヤ地区のコプト教会が連続して爆破された。タンタ市の聖ジョージ教会爆破事件では、29名が死亡、78名が負傷、アレキサンドリアの聖マルコ教会爆破事件では、17名が死亡、66名が負傷した(12日までの情報)。内務省はいずれの事件も自爆攻撃と見ている。現地紙によると、アレキサンドリアの聖マルコ教会でタワドロス2世教皇のミサが行われる予定だったが、教皇は爆破の直前に教会を出て無事だった。事件については、「イスラーム国エジプト」が犯行声明を発表した(『中東かわら版』No.5、2017年4月10日)。

 事件後、シーシー大統領は全土に非常事態を宣言する意思を発表し、10日、内閣が全土への3カ月間の非常事態宣言を承認、11日、議会がこれを全会一致で可決した。同時に議会は非常事態法(1958年62号法)を一部修正し、治安当局は重大犯罪または軽犯罪への関与が疑われる人物を検察の許可にもとづき7日間まで拘束できること、国家治安裁判所は公共の治安に対する脅威となる人物を検察の要請にもとづき1カ月間拘束できること(延長可能)を規定した。

 事件後、メディアに対する規制も始まった模様である。『バワーバ』紙は10日付の記事で事件は治安対策の失敗でありアブドルガッファール内相の責任であると批判したところ、その日の新聞が発禁となった。11日には、エジプト国内で活動する国営・民間メディアの活動許認可の決定、報道倫理の監督を強化する新組織に関して、大統領が人事を決定した。

 

評価

 国内の全政治勢力、諸外国、国連安保理、バチカンなどが事件に対して非難を表明した。政府、議会は、テロリズムに対処するためには非常事態宣言が適切な手段であるとして、同宣言は議会の全会一致で可決され、10日付けで発令となった。議会のコプト教徒議員や上述の一部メディアには、テロ事件の頻発は内務省による治安対策の失敗であると批判する声があるが、これらの声は政府支持派の議員や治安当局によって抑えられる傾向にある。

 非常事態宣言の発令を規定した憲法154条は、非常事態の発令期間は3カ月以内で、議会の過半数による承認を必要とする。非常事態宣言の延長は一度まで、議会の3分の2以上の賛成が必要である。これは、ムバーラク時代の政治で最も非難の対象とされた非常事態宣言の長期化を不可能とする目的で定められた条文であるため、現政権が憲法を無視して非常事態宣言を2度以上延長することはないと思われる。そもそも、すでに2013年のクーデタ以来、国家治安局を中心とする治安当局による広範なテロ掃討作戦や、テロ対策の名目のもと、政府に批判的な人物の資産凍結、出国禁止、「強制失踪」(治安当局が政府批判者を拉致し、長期間拘束する)が行われており、政治的自由は著しく制限されている。今回の非常事態宣言による新たな変化としては、テロ容疑者の捜索や逮捕、裁判における軍の役割が大きくなること、「公共の治安を脅かす」という曖昧な理由によって逮捕される件数の増加、国内・海外メディアの活動に対する制限がさらに厳しくなることが予想される。

(金谷研究員)

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