中東かわら版

№7 パレスチナ:ハマース軍事部門の幹部殺害をめぐる動き

 2017年3月24日、ガザ市南部でハマース軍事部門の幹部マーゼン・フカーハが殺害された。フカーハは、自宅のあるアパートに車で戻り、家族を先に下ろした後、車を地下の駐車場に入れようとした際、至近距離から頭を撃たれて死亡した。同人の殺害は、しばらく誰も気がつかず、殺害実行犯を目撃した者もいなかった。ハマース治安当局は、イスラエルによる暗殺だと主張し、実行犯の逃亡を防止するためにイスラエルとの陸の境界を閉鎖し、海上からの脱出を阻止するため漁船の操業も禁止して捜査を行なった。ハマースは、事件の捜査に関する報道及びSNSでの捜査に関する通信も禁止にした。またガザ内の対イスラエル協力者が殺害に関与したとして、対イスラエル協力者摘発を強化したほか、4月6日には死刑を宣告されていた対イスラエル協力者の囚人3人を処刑し、9日には、今後1年間で対イスラエル協力者26人を処刑すると発表している。こうした中、4月10日、ハマース治安当局は、フカーハ殺害犯1人を拘束したと発表したが、犯人に関する詳細は一切明らかにしていない。

 イスラエル側は、事件についてコメントしていないが、リバーマン国防相は、『イディオト・アハロノト』紙(4月10日)とのインタビューで、ハマースの内部犯行によるとの見方を表明している。ハマース側は、イスラエルによる暗殺作戦だとしており、報道では、ハマース軍事部門が報復を検討して実行する予定である。

 フカーハは、西岸生まれのパレスチナ人で38歳、2002年にイスラエルで終身刑を宣告されたが、2011年にイスラエル軍兵士との交換で釈放されていた。釈放後はガザに住み、西岸地区のハマース軍事部門の責任者だった。

評価

 イスラエルは、これまでガザのハマース幹部を殺害する際は、標的の人物が乗る車や住む部屋にミサイルを撃ち込んでいた。今回の殺害がイスラエル側の暗殺作戦だとすれば、新しい方法を導入したことになる。他方、ハマースの内部犯行であれば、内部の権力闘争あるいは路線対立の存在を示唆している。

 ガザのハマースは、2月13日に軍事部門幹部ヤフヤー・サンワールをガザの政治局長に選出したと発表した。イスラエル側の報道では、サンワールは軍事部門の実力者で、軍事部門と政治部門の両方を統括できる人物だと評価されている。ガザは2007年以降、すでに10年近く政治的、経済的に孤立状態にある。この間、ハマースは、孤立を回避するための政治的な試みをしていなかったが、最近、新しい動きをするのではないかとの観測が強まっている。ハマースは、昨年末頃から、内部での選挙を進めており、新しい指導部を選出しつつある。ガザのハマースのトップである政治局長の交代もその一環である。また3月頃から、在外を含むハマース指導部が、ハマースの政治綱領を更新するようだとの報道が増加している。報道では、ハマースは、全パレスチナを解放して国家を創設する立場だったが、それを変更して、東エルサレムを含む西岸とガザにパレスチナ国家を創設するとの立場を表明する方針のようである。また、エジプトのムスリム同胞団との関係を公式に断ち、現在のシーシー政権との関係を改善するとも報道されている。新政治綱領の公表は4月中に行なわれるようだ。ハマース指導部が、このような路線変更を進めているのであれば、保守派あるいは強硬派との内部抗争が激化してメンバーの殺害に至る可能性はあるだろう。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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