中東かわら版

№5 エジプト:「イスラーム国」が教会爆破事件の犯行声明を発表

 201749日(現地時間)、エジプトのタンタとアレキサンドリアでキリスト教の一派であるコプト教会に属する教会に対する自爆攻撃が発生した。事件については、「イスラーム国 エジプト」名義で犯行声明が出回った。声明は、アレクサンドリアの聖マルコ教会に対しては「アブー・バラー・ミスリー」、タンタの聖ジョージ教会に対しては「アブー・イスハーク・ミスリー」が爆弾ベストを用いて自爆攻撃を行い、50人以上を殺害、140人を負傷させたと主張した。

画像:「イスラーム国 エジプト」名義の犯行声明。

 

評価

 

 エジプトでは、最近シナイ半島で「イスラーム国 シナイ州」に対する掃討が強化され、連日エジプト軍と「イスラーム国」の双方に死傷者が出ている。そうした中、「イスラーム国」による破壊活動がナイル川沿岸の「エジプト本土」に拡大しているのではないかとの懸念が高まっている。実際、20161213日のカイロの教会に対する自爆攻撃でも「イスラーム国 エジプト」名義で犯行声明が出ており、2017219日には同じ名義でエジプトのキリスト教徒こそ第一の攻撃対象であると脅迫する動画が出回った。

 

 ここまでの情勢推移を見ると、エジプトでも「イスラーム国」の攻撃や扇動により「宗教対立」が先鋭化し、社会が不安定化しているように見えるかもしれないが、そのような筋書きに沿って観察することは、安易に「イスラーム国」の扇動に乗った行為かもしれない。「イスラーム国」が従来のイスラーム過激派諸派と異なる行動様式を持っているとの立場に立つと、その特徴は「政治権力の奪取」、「支配地域の確立」であろうが、エジプトでキリスト教徒を第一の攻撃対象とすることはそのいずれにも直結しない。むしろ、「イスラーム国」の攻撃対象が、これまで戦ってきたと主張する「十字軍」や「背教者の支配者たち(=アラブ諸国の為政者)」ではなく、欧米先進国の報道機関や世論の関心を引きやすい「キリスト教徒」に移っていることは、権力領域の奪取を重視しない従来型の破壊行為への退行を示しているとも言えよう。

 エジプトの政治・経済・社会情勢が、混乱し、安定感を欠いているのは事実であろうが、その原因は「アラブの春」以降の政治的混乱を受けたものであり、イスラーム過激派の破壊行為によるものではない。すなわち、「イスラーム国」の存在はエジプトの混乱の「結果」であり、「原因」ではない。この点を見落とすと、「イスラーム国」の存在や広報活動を過大評価し、彼らを延命させることにもなりかねない。

(イスラーム過激派モニター班)

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