中東かわら版

№4 エジプト:シーシー大統領の訪米、トランプ大統領と会談

 4月3日、シーシー大統領は米国を訪問し、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した。エジプトの大統領がホワイトハウスを公式訪問するのは、2009年以来8年ぶりである。会談には、ガールヒー財務相、ナスル投資・国際協力相、カービール貿易・産業相も同席した。トランプ大統領は、エジプトはテロ対策で「素晴らしい仕事」をしていると述べ、米国はエジプトのテロとの戦いを支援すると約束した。これについてシーシー大統領は、米国の支援の約束に謝意を表明し、エジプトはテロ対策において常に米国と共にあると述べた。両首脳はテロ対策の分野で協力することを確認し合ったようである。

 4日には、ティラーソン国務長官との会談が行われた。シーシー大統領は、米国とエジプトの戦略的関係は中東地域の安全保障と安定のために極めて重要であること、中東の安定を回復するため米国にさらなる努力を期待すること、イスラエル・パレスチナ和平交渉の再開に向けた努力を期待することを伝えた。ティラーソン長官は、エジプトのテロ対策、経済政策、中東での役割を称賛した。その他、マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官(4日)、マティス国防長官(5日)との会談が行われ、中東・国際情勢、テロ対策が議題となった。マティス長官は二国間の軍事協力を強化したいと述べている。

 経済関係の会談では、シーシー大統領は、ドナヒュー全米商工会議所会頭、クライストマン米国エジプト・ビジネスカウンシル議長、エジプトでの事業展開に関心のある米企業12社トップとの会談に出席し(3日)、民間部門や外国企業からの投資を歓迎すること、投資環境を整備している最中であることを強調した。

 上記以外に、ライアン下院議長や下院・上院議員らとの会合が行われ、シーシー大統領に向けてエジプトの人権状況に関する懸念が伝えられた。これについて大統領は、テロ対策と人権保護の間で政策のバランスを取らなければならないと述べたと報じられた。

 

評価

 エジプト・米国関係は、「アラブの春」や2013年のクーデタを経て、オバマ政権時代に冷え込んでいた。今次首脳会談では、両国が共に重要案件とみなしているテロ対策の分野で協力を促進していくことが確認された。トランプ・シーシーの間でエジプトの人権問題が議題に上がらなかったことは、両首脳の政策上の優先順位が一致していることを意味していよう。

 今回の米国訪問でエジプトが米国に期待したことは、治安・軍事協力の確約、ムスリム同胞団のテロ組織指定、米国からの投資である。治安・軍事協力の確約については、首脳会談やその他閣僚との会談で獲得できたが、問題は、トランプ政権が2017年度国務省予算の28.7%削減を予定している点、またオバマ政権下でエジプト向けのキャッシュフローファイナンス(CFF:米国大統領が指定した特定の外国政府が米国軍事産業から兵器を信用購入するための融資制度)を2018年度から廃止することが決定している点である。CFF廃止によって、兵器購入の制度は、テロ対策、国境警備、シナイ半島の治安対策、海上安全保障の4項目に使途が限定されることとなり、兵器購入におけるエジプト政府の自由裁量が小さくなった。国内でのテロ対策に躍起となっているエジプトとしては、米国からの年間13億ドルの軍事支援(グラント)は何としても維持したいし、CFFの再開も望んでいる。公表された会談内容からは、米国がエジプトに何らかの具体的な軍事支援を約束したかどうか定かではないが、国務省も国防総省も中東におけるエジプトの役割を重視しており、少なくとも年間13億ドルのグラントは維持されると思われる。

 なお、ムスリム同胞団のテロ組織指定問題が会談で取り上げられたのかは不明である。1月に、同胞団をテロ組織に指定する法案が共和党議員によって米下院に提出されたが、テロ組織に指定することによって、イスラーム過激派諸派による米国に対する攻撃の扇動を増長させうるとして、共和党内部にも反対の声があるようだ。

 米国からの投資に関しては、課題はエジプト側での投資環境の整備にある。米企業はエジプトへの投資に意欲を見せたと報じられている。投資法改正は来週からエジプト議会で審議される予定であり、資本市場に関する法律、金融リースに関する法律は関係省庁で法案を作成中であるという。エジプト政府は外国からの投資を増加することで経済活動の活性化を計画しており、一刻も早く法改正が完了することが望まれる。

(研究員 金谷 美紗)

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