中東かわら版

№3 シリア:アメリカ軍がシリア軍基地を巡航ミサイル攻撃

 シリア軍総司令部は、201747日午前342分、シリア中部の空軍基地のひとつがアメリカ軍によるミサイル攻撃を受けたとして要旨以下の通り発表した。

  • 攻撃により、6名が殉教、複数が負傷、大きな物的損害が出た。

  • この攻撃は、アメリカの誤った戦略が継続していることを確認すると共に、シリア軍によるテロ対策の成果を殺ぐものである。この攻撃は、アメリカを「イスラーム国」や「ヌスラ戦線」、その他のテロ組織の仲間とするものだ。

  • アメリカはシリア軍がハーン・シャイフーンで化学兵器を使用したと主張し、事実を知ることなしに攻撃を正当化した。これは、テロ組織に対し、将来テロ組織が損害を受けたときは、いつでも化学兵器の使用を主張すればよいとの誤ったメッセージを送ることだ。

  • アメリカ軍による攻撃は、あらゆる国際法と国際的了解に反しており、シリア軍のテロ対策能力に影響を与えようとするものである。

 

 なお、レバノンの『ナハール』紙(キリスト教徒資本)によると、攻撃を受けたのはホムス市南東31kmに位置するシャイーラート空港で、シリア政府軍にとって最重要の軍事空港である。さらに、シリア紛争の戦況を継続的に報じているインターネットサイトは、アメリカ軍が攻撃を行った直後、「イスラーム国」がシャイーラート空港付近のシリア軍基地に対する攻撃を開始したと報じた。

 

評価

 今般の攻撃の意義や影響を判断し、シリア紛争の行く末を展望する上では、今後アメリカ軍がどの程度の量・質でシリア軍を攻撃するかが着目点となる。現在、シリア紛争ではロシアやイランの支援を受けるシリア政府の政治・軍事的優位が確定した状態にある。アメリカ軍がこれを覆すほどの攻撃を行えば、ロシアとの軍事衝突の発生、既に未曾有の水準に達している人道危機のさらなる悪化、「イスラーム国」や「ヌスラ戦線(現「シャーム解放機構。シリアにおけるアル=カーイダ」)」の一層の増長、ひいては紛争の長期化と被害の拡大を招くだろう。一方、攻撃が「象徴的」なものにとどまれば、紛争の現場での優劣には大きな変化は生じず、多少テンポが落ちてもシリア・ロシア・イラン陣営優位、すなわち紛争収束に当たり欧米諸国の利益が反映されにくい状況に向かっていく可能性が高い。実際の情勢は、この二つの極の間のいずれかで推移すると思われる。

 問題は、アメリカに最悪の結果が生じた場合の対処や収束の準備があるように感じられないことである。トランプ大統領は、「独裁者バッシャール・アサドが化学兵器を使用し、民間人を殺害したことへの反応として攻撃を命じた。化学兵器の拡散や使用を抑止することはアメリカの安全保障に資する。これまでアサドの振る舞いを変えようとした試みは大失敗に終わった。」と述べ、シリア政府に対する武力行使に及び腰だったオバマ政権との違いを強く意識させる態度を表明した。しかし、今般の攻撃は軍事空港1カ所への攻撃に過ぎず、実際には「シリア紛争を収束させるには過少、紛争を長期化させ被害を拡大させるには過大」な介入を繰り返す点において今般の攻撃とオバマ政権の態度は本質的に同じものである。

 その上、早くもアメリカ軍のシリア政府軍攻撃に呼応するかのように「イスラーム国」が攻勢に出たとの情報が出ている。これは、アメリカがどのような意図であるかに関わらず、シリア政府軍を攻撃することはイスラーム過激派に対する援護射撃であり、これはイスラーム過激派の殲滅を標榜するトランプ大統領の方針と矛盾する。すなわち、攻撃しすぎれば紛争被害の拡大・イスラーム過激派の伸張を招き、攻撃しなければアメリカが言うところの抑止や懲罰にならないという、いずれの選択肢も望ましくない副作用を伴うのである。

(髙岡上席研究員)

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