№31 リビア:ハフタルとエジプトのシーシー大統領、ヒガージー参謀総長が会談
東部の軍事勢力「リビア国民軍」(LNA)のハリーファ・ハフタル総司令官は、5月13日、カイロを訪問し、シーシー大統領と会談した。また16日には、リビア諸勢力の仲介を担当しているエジプト軍参謀総長のマフムード・ヒガージーが東部ベンガジを訪問し、ハフタルと会談した。エジプト高官によるベンガジ訪問としては、ヒガージー参謀総長が最もハイレベルとなる。ムハンマド・シャハート軍諜報局長も同席した。
シーシー大統領はエジプト政府系紙とのインタビューで、会談は「素晴らしい」ものであったと述べた。リビアの安定はエジプトの安定に直接影響を及ぼすため、エジプトはリビアの安定化に向けた政治的解決に積極的な役割を果たす意志があり、UAEと共にリビア諸勢力の調整を行っていると述べた。また、リビア安定化を実現する基本的条件として国連による対リビア武器禁輸措置の解除を挙げた。これは、LNAや代表議会などリビア東部勢力が繰り返し国際社会に対して要求している内容と同じである。
他方、ヒガージー参謀総長との会談では、エジプト軍発表によると、リビア国内情勢、国際情勢、リビア・エジプト間国境の管理、不法移民・密輸対策について協議が行われた。ヒガージー参謀総長はハフタルに、イスラーム過激派掃討作戦「尊厳作戦」の3周年に際して祝いの言葉を述べ、同胞国家リビアを支援することを約束した。ハフタル側はエジプトによるLNAへの支援に謝意を示したという。
評価
今次会談は、昨年末から活発化したリビア危機のアラブ諸国仲介外交における新しい展開といえる。リビア情勢を重大な国益問題と考える国は、地中海から不法移民が流れ込む欧州諸国、リビアと国境を接するエジプト、チュニジア、アルジェリアだが、特にエジプトはリビア東部勢力と政治的・軍事的関係を深めており、東部への影響力が大きい。2月にカイロでエジプト軍仲介のもとハフタル総司令官とサッラージュGNA(国民合意政府)首相との会談が行われたが、ハフタルが会談を蹴る形で終わり、エジプト側はハフタルに不快感をもったと言われている。
この後、東部勢力とGNA閣僚はそれぞれエジプトやUAEを訪問した結果、5月2日、アブダビでムハンマド・ガーイド皇太子の仲介のもとハフタルとサッラージュの会談が実現し、GNA執行評議会の構成の変更、リビア政治合意8条(GNA執行評議会を軍最高司令官と規定)の削除などで合意したと報じられた。このように、東部勢力とGNAとの間には最近になって交渉チャンネルが開かれ、そのような状況のなかでハフタルとシーシー大統領・エジプト軍参謀総長との会談が行われた。今次会談が、対立する東西勢力が具体的な合意に向けて調整を行う推進力になりうるかが注目される。ハフタルが今後GNAとの合意形成に消極的な姿勢を見せれば、再び仲介役のエジプトの顔に泥を塗ることになるだろう。
(研究員 金谷 美紗)
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