中東かわら版

№1 「イスラーム国」の生態:偽装転向と逃亡

 201744日付『シャルク・ル・アウサト』紙(サウジ資本)は、消息筋、「反体制派」活動家らの話を基に、「イスラーム国」の構成員やその家族の偽装転向や逃亡が相次いでいる状況について要旨以下の通り報じた。

 

  • 「イスラーム国」の構成員が、同派から離反したと偽って「ヌスラ戦線(現:「シャーム解放機構」)」や「ユーフラテスの盾」(トルコ軍配下の武装勢力)諸派に加わる事例が見られる。アレッポ県北部のバーブ市を占拠する武装勢力の評議会は、「イスラーム国」の者が転向を偽装して革命諸派の戦列に浸透し、地域の安全を脅かす恐れがあるため、そのような者を受け入れた武装勢力を問責するとの声明を発表した。

  • 「イスラーム国」からの離反を表明する者の多くは、バーブ市やその周辺出身で「イスラーム国」の行政部門にいた者たちである。外国人戦闘員の離反表明は少数である。しかし、バーブ周辺では暗殺や自動車爆弾を用いた爆破事件が増加しており、「イスラーム国」が偽装転向を通じた浸透戦術を取っているとの見方が強まっている。偽装転向はイドリブ県郊外部や沿岸地方でも行われており、その結果、彼らを受け入れた武装勢力内で問題が発生したり、暗殺や爆破事件が増加したりしている。

  • 「イスラーム国」の者数十人がヨーロッパへ逃亡する事例も生じている。「イスラーム国」にはヨーロッパ諸国へ潜入するための資金や、入国管理を突破する能力が十分ある。「イスラーム国」の者は、多くの場合偽装パスポートを使用している。彼らは、ドイツ、オランダ、その他の諸国に入国した。彼らがヨーロッパ諸国に密航する目的は、攻撃を実行する以外にも組織の思想を温存することや戦闘員の勧誘がある。

  • ラッカでは、「イスラーム国」の戦闘員と家族の撤退・逃亡が起きているが、一部はダイル・ザウル県マヤーディーンへ移動し、地元出身の構成員はラッカ市から脱出する避難民に混じって逃走している。なお、トルコ軍が占拠しているアレッポ県アアザーズの難民キャンプにも「イスラーム国」の構成員の家族がおり、そのほとんどは外国人である。

 

評価

 今般の報道の情報源は、全て「反体制派」の者やその支持者であるため、「イスラーム国」の構成員の偽装転向や移籍を後方撹乱などのための浸透戦術と解釈している。しかし、イスラーム過激派であれ、「自由シリア軍」を称する諸派であれ、シリアで活動する武装勢力諸派の末端の構成員が目先の戦況や資源獲得の可能性を理由に安易な移籍を繰り返していることはシリア紛争の初期段階から知られていたことである。従って、「反体制派」諸派の側にも戦闘員の確保など、「イスラーム国」の構成員を受け入れる動機があり、このような関係は「反体制派」を強化することによって「イスラーム国」に対抗しようとする欧米諸国の政策をことごとく失敗させた原因のひとつであろう。また、「イスラーム国」が組織的に偽装転向、加入戦術を採用しているとなると、そうした構成員を受け入れた諸派の一部が「イスラーム国」なりイスラーム過激派に乗っ取られるような事態も生じうる。今般の記事自体は「イスラーム国」の構成員の偽装転向や逃亡の危険性を指摘する趣旨であるが、別の見方をすれば「イスラーム国」による加入戦術の標的となる「反体制派」諸派の脆弱さをも示している。

(イスラーム過激派モニター班)

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