中東かわら版

№196 イラン:ロウハーニー大統領のロシア訪問

 3月26日から27日、ロウハーニー大統領はロシアを訪問し、プーチン大統領、メドヴェージェフ首相とそれぞれ会談した。27日の首脳会談前には、両首脳同席の下、犯罪人引き渡し、法、査証免除、電気、スポーツ、情報通信技術、建設・住宅、国際規格、原子力エネルギー、石油、貿易、ガス、鉄道の分野における協定や覚書14件および鉄道の電化事業に関する1件の契約への署名が行われた。首脳会談後に発出された共同声明の概要は以下のとおり。

 

1. 二国間関係

・二国間の貿易量が著しく増加していることに満足している。合同のプロジェクトの実施を通じて、エネルギー、運輸、工業、航空宇宙産業、その他ハイテク・イノベーション分野での協力が進展することを望む。

・ロシアは、イランの火力発電所建設およびガルムサール‐インチェブルーン間の鉄道の電化事業に対する融資について国内の輸出信用機関の手続きを終えたことをイラン側に伝達した。

・イランとユーラシア経済連合との間で、自由貿易地域設置に関する暫定合意を締結する準備が迅速に完了したことを歓迎する。

・原子力エネルギーは優先的に協力を進める分野である。イランのブーシェフル原子力発電所の第二、第三ブロックの建設を進めていく。

・石油・ガス分野では、探査や生産、輸送、技術移転、スワップ取引、関連施設の建設での協力を拡大していく。また、ガス輸出国フォーラムの枠組みにおける建設的な交流を継続する。

・OPECと非OPEC諸国による石油市場の需給バランスのための合意を承認する。両国はエネルギー市場安定のため協力を継続する。また、石油産業への投資を誘引することで協力する。

・国際的な輸送路として南北回廊プロジェクトを開始する意思があることを確認した。また、イランのガズウィーン‐ラシュト‐アースターラー間の鉄道網の建設を急ぐ。

 

2. 国際・地域協力

・駐トルコ・ロシア大使殺害事件や、在ダマスカス・ロシア大使館、在ベイルート・イラン大使館、在バグダード・イラン大使館への攻撃のようなテロ行為を強く非難する。テロリストや過激派を政治的、地政学的目的を達成するための手段として用いることは許容し難い。

・スタックスネットによってイランの核施設を攻撃したような、情報空間での力の行使および行使の脅迫を非難する。国連の下、情報空間における責任ある国家の行動の規則を練り上げる必要があり、ロシアとイランはこの分野で協力を発展させる用意がある。

・イラン核合意の重要性を確認し、全ての関係国がこれを完全に履行する必要があること、また、NPTに従ってイランが原子力エネルギーの平和利用の完全な権利を有することを強調する。ロシアはイランが義務を厳密に履行してきたことを歓迎する。また、両国は中東非核化構想を支持する。

・アフガニスタンでテロリストの脅威が増大していることを懸念している。平和的解決と国民的和解を促進するモスクワ対話が開始したことを歓迎する。

・シリア紛争は国連安保理決議2254号の原則に基づいて政治的・外交的に解決されることを望む。シリア政府、シリア軍および民兵は、「イスラーム国」、ヌスラ戦線およびこれらに関連する組織との戦いにおける努力を継続することを強く表明している。また、ロシア・イラン・トルコの3カ国による取り組みはアスタナでのシリア和平会合や、停戦を行う環境を作り出した。これは国連によるジュネーブ会合の成功に向けた重要な一歩である。

・イラク政府が「イスラーム国」などの過激派と戦い、領土の回復を目指していることを支持する。また、テロリストがイラクの人民や民族的、宗教的少数派、文化遺産を標的にしていることを強く非難する。

・イエメンでの大規模な人道危機およびテロリストの活動拡大を懸念している。イエメンに対する経済封鎖を解除して人道支援が届けられるようにすることが重要である。

・レバノンで大統領を選出し、政府を樹立することで各政治集団が合意したことを歓迎する。

・パレスチナ問題が公正かつ永続的に解決することを望む。

・上海協力機構など地域協力機構の枠組みにおける協力を強化する。また、ロシアはイランの上海協力機構加盟を支持する。

 

評価

 ロウハーニー大統領のロシア訪問は、昨今のイラン・ロシア関係の親密さを窺わせるものとなった。共同声明では直接的には言及されていないものの、米国やイスラエル、サウジアラビアを念頭に置いて非難している箇所が散見され、地域・国際問題に関してロシアとイランが一定の立場を共有していることが分かる。

 他方で、軍事協力に関しては、大きな進展は見られなかった。イランはロシアからSu-30戦闘機やT-90戦車を調達することを検討しているものの、今回の訪問では本件に関して特に言及はなかった。プーチン大統領は記者会見でスホーイ・スーパージェット100とヘリコプターの供与を協議したことを明らかにしたが、これは民用機であり、軍事協力とは言えないだろう。また、注目を集めたザリーフ外相の『Reuters』での発言は、「ロシアは(イランに)軍事基地を持っていないものの、我々は良好な関係を有しており、個々の場合の判断になるが、ロシアがテロとの戦いでイランの施設を使用する必要があるときには我々は決定を行う」というものであった。『Newsweek』はこれを「ロシア軍はイランからシリア反体制派と「イスラーム国」を空爆できる」というタイトルで報じたが、ザリーフの発言はイランの原則的な立場を表明したに過ぎず、総じてメディアは過剰に反応しているように見受けられる。

 今回の訪問では、むしろ経済協力に大きな焦点があてられている。イラン南部のシーリーク火力発電所やガルムサール‐インチェブルーン間の鉄道の電化事業に対する22億ユーロの融資が承認されたことは、核合意による制裁解除後、外資の導入を期待してきたイラン政府にとって待望の展開であろう。5月に大統領選を控えるロウハーニーにとっても、核合意成立後の経済的な成果を国民に訴えるためにロシア訪問を利用したい思惑があっただろう。

 

※イラン・ロシア関係については、以下も参照。村上拓哉「イラン:悪化する対米関係とロシアへの接近」『中東分析レポート』No.R16-05、2016年8月29日(会員限定)

(研究員 村上 拓哉)

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