中東かわら版

№69 イスラーム過激派:ブラジルで「イスラーム国」に忠誠表明?

 アメリカのSITE Intelligence Group(イスラーム過激派のオンライン活動を監視する企業) は、「Ansar al-Khilafah Brazil(注:SITEが発表したママ。)」なるものが「イスラーム国」でカリフを僭称するバグダーディーに忠誠を表明したとの情報を発信した。問題の「忠誠の表明」は以下の画像だと思われる。

 

 

評価

 この画像が問題の「忠誠の表明」ならば、画像のできばえは非常に悪いといわざるを得ない。画像の右部分が、SITEが「Ansar al-Khilafah Brazil」と訳出した部分で、同社はこれを「ブラジルのカリフの支援者」と読ませることを意図していると思われる。しかし、実際の記載は「al-Ansar al-Khilafa al-Brazil」であり、全ての語に定冠詞(al-)がついていることから何がしかの組織名として訳出するのは不可能である。また、左部分の冒頭には確かにバグダーディーに忠誠を表明する旨書かれているものの、明らかな入力の誤りをはじめ意味不明な箇所が複数ある稚拙な作文となっている。実際、SNS上でこの画像の製作者は「イスラーム国」のファンとみなされている模様であり、真剣な投稿として扱うことに疑問符がつく。

 従来、インターネット上で著述をするイスラーム過激派の個人・団体、及びそれらの支持者・ファンは、著述の真正性を担保するために疑わしい書き込みや、そうした書き込みをする書き手たちを積極的に排斥する傾向にあった。そして、真正性を担保する上での論点のひとつが、「正しいアラビア語」による著述だった。この観点から見ると、今般SITEが取り上げた「忠誠の表明」は稚拙な文書として書き手もろとも排斥されるべき存在といっても過言ではない。しかし、近年のSNS使用の隆盛により、著述の真正性を担保する活動が衰えている模様である。SNS上での拡散は、必ずしも作品の真正性や作者の信頼性を重視せずに急速に進んでしまうからである。本来、上記のような稚拙な作品を発表する個人や団体はイスラーム過激派の仲間から信頼を得ることができず、そのような発信者が製作する作品が社会的な影響力を持つことも全く期待できないものである。にも拘らず、「イスラーム国」、「忠誠の表明」、「ブラジル」のようなキーワードに引きずられて、この程度の作品をブラジルでの「イスラーム国」の活動云々として扱うことは、同種のいたずらや信頼性の乏しい投稿を増やす結果に終わりかねない。

(イスラーム過激派モニター班)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP