№68 イスラーム過激派:ニースのでトラック暴走事件
2016年7月16日、「イスラーム国」の自称報道機関の「アアマーク」と「バヤーンラジオ」は各々ニースでの轢殺事件を「イスラーム国」の兵士の作戦であると主張した。「報道」の内容は以下の通り。
画像:「アアマーク」の「報道」
治安消息筋、アアマーク通信に対し以下の通り述べる:フランスのニースでの轢殺作戦の実行者は、イスラーム国の兵士の一人である。同人は、イスラーム国と戦う同盟国の国民を攻撃するようにとの呼びかけに応えて作戦を実行した。
評価
本稿執筆の時点で犯人が「イスラーム国」について何がしかの意思表示をしていたとの情報はない。捜査当局、報道機関、そして「イスラーム国」やそのファンたちがSNSなどで犯人の意思表示があったか熱心に検索したと思われるが、事件発生から二日あまりが経過しても情報がないことに鑑みると、今後インターネット上で犯人による「イスラーム国」への共感や忠誠の表明のようなものが発見される可能性は高くはないだろう。しかし、フランスの当局は早々と「イスラーム国」の「テロ攻撃」との認識を示した。今般の「報道」はフランス当局や報道機関の反応に乗じて事件を「イスラーム国」の業績として取り込もうとしたものであろう。「イスラーム国」の公式な媒体で「犯行声明」を発表した場合、組織としての関与の程度や犯人について実行者のみが知りうる情報を開示しなくては説得力が乏しくなるが、自称報道機関で言及して「認定」するだけならば事件についての情報開示や説明は必要なく、「イスラーム国」やその支持者にとっては実に便利な手法といえる。この手法に則れば、犯人がムスリムの事件は全て「イスラーム国」の作戦として取り込むことが可能となる。そして、こうした手法に安直に反応すれば、同様の行為を次々と誘発する結果となろう。
「アアマーク」も「バヤーンラジオ」も、「イスラーム国」の広報機関ではあるが、「声明」類を発信して組織の意志や立場を表明する権能を持つ存在ではない。重要なことは、組織とは無関係の事件を事後的に「認定」して業績を取り込むという「アアマーク」、「バヤーンラジオ」の機能を理解すべきだということである。これらの機関による「報道」をどのように取り扱うべきかについて、更なる事件や模倣犯の防止という観点から工夫の余地があるだろう。
(イスラーム過激派モニター班)
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