№186 イスラエル:ネタニヤフ首相のロシア訪問
ネタニヤフ首相は、3月9日、モスクワを訪問しプーチン大統領と会談した。両者は、シリア情勢を協議したと報道された。会談後、ネタニヤフ首相は、シリアでイランと連携するロシアにイスラエル側の懸念を伝えたと述べている。ネタニヤフ首相は、2015年に1回、2016年には2回ロシアを訪問している。2016年3月には、リブリン大統領もモスクワを訪問している。この時リブリン大統領は、シリアについてのイスラエル側の「レッドライン」を伝えたと報道された。それは、①シリア南部にイランの革命防衛隊が存在しないこと、②シリアがヒズブッラーに最新兵器を供与しないことであった。ネタニヤフ首相は、今回の訪問でも同様の懸念を伝えた可能性が高い。米『ワシントン・ポスト』紙(3月9日)は、イスラエルは、シリア政府に影響力を強めたイランがシリア南部でのプレゼンスを強めることを警戒していると分析している。3月12日、イスラエルの『Ynetnews』は、イラン革命防衛隊が訓練したイラクのシーア派民兵で組織された「ゴラン旅団」がシリア国内で活動していると報道した。同報道によれば、「ゴラン旅団」は、2013年以降、シリア国内の戦闘に投入されており、活動の最終目的はゴラン高原の解放である。
評価
イスラエルが占領するゴラン高原は、シリア国内で発生する戦闘の間接的な影響を受けている。今までのところ、シリア側から時折、流れ弾がイスラエル側に着弾している程度であるが、イスラエル側は休戦ライン沿いでレバノンのヒズブッラーが活動を強化することを警戒している。イスラエルは、シリア南部の反政府勢力の負傷者をイスラエル国内の病院で治療していることは認めているが、詳細は明らかにしていない。2015年1月には、イスラエル軍が、境界線の北で活動するヒズブッラーの車両を攻撃して破壊したが、その車にはイラン革命防衛隊の将官が乗っていたことがある。イスラエル側は、革命防衛隊の兵士を攻撃する意図はなかったと釈明したが、革命防衛隊が休戦ラインのそばで活動することも歓迎しないはずだ。
イスラエルは、アサド政権が国内を再掌握することに反対しないだろう。イスラエルにとって、アサド大統領は「熟知した敵」だからである。しかし、アサド体制を支援したイランがシリア南部(ゴラン高原の北側)でのプレゼンスを強化することは、イスラエルにとって新たな脅威となる。イスラエルとしては、ロシア政府にイスラエル側の懸念を伝え、シリア政府への影響力を行使してもらう選択肢しか今はないだろう。
(中島主席研究員 中島 勇)
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