中東かわら版

№185 イスラーム過激派:NIKEはハラーム

 201736日、イラクやシリアでの紛争の前線からの情報を発信すると称する『マスダル・ニュース』は、「イスラーム国」がNIKE製品をハラーム(=禁止行為。反対語はハラール。)と断定し、その販売・流通・着用を禁止したと報じた。

画像:「イスラーム国」の「ヒスバ」がNIKE製品の販売・流通・着用を禁止するとの裁定を布告したとされる張り紙(https://www.almasdarnews.com/article/isis-bans-nike-products-declaring-haram/

 

 この裁定は、NIKE製品を禁じる論拠として、コーラン、ハディース(預言者ムハンマドの言行録)、イブン・タイミーヤ、18世紀~19世紀のアラビア半島のワッハーブ派の学者を引用し、例え現存しないものでも不信仰者の宗教行為を模倣することは禁止されると主張している。NIKEについては、これがギリシャの勝利の女神であり、NIKE社の経営者たちがその女神にちなんで社名を決めたことから、そのような行為を不信仰と断じている。その結果、NIKE製品の衣類やバッグ類は販売・流通・着用が禁止され、違反者は「問責・叱責される」そうだ。

 

評価

 上の画像によると、「イスラーム国」の風紀取り締まり機関である「ヒスバ」名義でNIKE製品が禁制であると布告する裁定が張り出されたことになっているが、左上の布告の番号や期日、そして発布された場所が不明瞭であり、これを直ちに「イスラーム国」による裁定と断じることはできない。その一方で、NIKE製品については、その名称の由来の通りイスラーム過激派のファンらの間でその適否がしばしば話題となっており、禁止裁定が事実だとしても不自然なことではない。

 「イスラーム国」は、既に飲酒・喫煙・楽器の使用の禁止や、ひげ、服装についての規制など、占拠した地域の住民の日常生活や個別の立ち居振る舞いに至るまで統制し、違反者を暴力的に処罰してきた。そうした文脈では、NIKE製品の禁止は「イスラーム国」による住民に対する迫害や圧迫の一コマに過ぎないだろう。その一方で、NIKEなど外来の製品やサービスに対する「ハラーム/ハラール」の判断は、「イスラーム国」やその支持者の間だけでなく、一般のムスリムの間でも論争や問題を惹起することがある。今般のような事例は、単に「イスラーム国」の思考・行動様式の不条理さを示すだけでなく、イスラームやムスリムの生活に内在される論理的な問題をも投影しているといえよう。

(イスラーム過激派モニター班)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP