中東かわら版

№181 シリア:アメリカが「反体制派」への援助を凍結

 2017221日付『ハヤート』紙(電子版)などは、アメリカがシリア北西部の「反体制派」武装勢力への軍事援助を凍結したと報じた。これまでは、CIAが同地域の「反体制派」武装勢力への軍事援助を実施していたが、「反体制派」筋は2月になってイスラーム過激派武装勢力が(「反体制派」に)攻勢をかけたことを受け、詳細の説明なしに援助が凍結されたと述べた。「反体制派」は、援助凍結の主な理由は提供された武器や資金が過激派の手に落ちるのを防ぐためであると考えている。アメリカ筋は援助の凍結について、「凍結対象は(「反体制派」武装勢力要員の)給与、訓練、対戦車誘導ミサイルなどの武器弾薬である。凍結の理由は過激派の攻勢で、トランプ大統領の就任とは無関係である」と述べた。

 この報道によると、アメリカ当局は「「反体制派」向けの武器や訓練の提供を始めた当初からより過激な武装勢力に武器が転売されたり、奪取されたりして流出する問題」を認識しており、常時懸念してきた。一方、現在もヨルダン方面での「反体制派」向け軍事援助は継続している。

 

評価

 報道では具体的な地名は挙げられていないが、アメリカによる軍事援助が凍結された地域はイドリブ県やアレッポ県南西部を中心とする地域と思われる。この地域では、201612月に政府軍がアレッポ市を制圧して以来、「反体制派」や「ヌスラ戦線(現「シャーム解放機構」)」、「シャーム自由人運動(アフラール・シャーム)」、「イスラーム国」に与する諸派の抗争が勃発し、イドリブ県内を中心にこれらの諸派の戦闘が続いている。全般的な状況としては、かつて「自由シリア軍」を名乗っていた諸派をはじめとする群小の武装勢力が次々と「ヌスラ戦線」と「シャーム自由人運動」に吸収され、イドリブ県周辺の武装勢力はイスラーム過激派の二派

図:「シャーム解放機構」のロゴ(左) 「シャーム自由人運動」のロゴ(右)

 

に収斂しつつある。この二派は、いずれもアル=カーイダと近しい系譜であり、これらにアメリカが援助している武装勢力が吸収されている現状は、イスラーム過激派対策という意味でも、「反体制派」支援という意味でもアメリカなどによるシリア政策が行き詰まっている証左である。ヨルダン方面では「反体制派」向けの軍事援助が続いており、2月半ば以降「反体制派」がダラア市の政府軍の拠点へ大規模な攻勢をかけている。しかし、諸派の戦果広報を見る限り、攻勢の主力は「シャーム自由人運動」の模様である。また、ダラア周辺での戦闘激化を受け、イスラエル方面から「イスラーム国」の傘下と思われる武装勢力が「反体制派」の占拠地域を奪取している。こうした状況を見ると、ヨルダン方面での「反体制派」支援も、アメリカなどの部隊が「反体制派」を直接指揮・監督しなければ最終的にはイスラーム過激派を利する結果に終わるだろう。

 「反体制派」の一部は、イスラーム過激派の伸張防止やイランへの対抗上の理由からアメリカなどが「反体制派」を見放すことはないと楽観しているようである。しかし、「反体制派」自身がアサド政権打倒と政権打倒後の秩序の樹立という目的を彼岸化し、シリアを舞台とする国際関係上の角逐の「コマ」としての立場に終始する場合、シリアの「反体制派」武装勢力はその役割を終えてしまったということになろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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