№178 イスラエル:米国・イスラエル首脳会談
2月15日、イスラエルのネタニヤフ首相は、ホワイトハウスを訪問、トランプ大統領と会談した。大統領に就任したトランプ氏とネタニヤフ首相が会談するのは、今回が初めてである。大統領選挙でトランプが勝利した後の2016年11月9日、ネタニヤフ首相がトランプ氏に電話して、トランプ政権発足後、早い時期にワシントンを訪問することで両者は合意していた。
共同記者会見では、最初にトランプ大統領とネタニヤフ首相が、短い声明を読み上げ、その後、数名の記者との質疑応答を行なった。トランプ大統領は、質問に答える中で、自分はパレスチナ問題の解決について2国家解決案にはこだわらず、当事者が合意するのであれば、2国家案であれ1カ国案であれ、支持すると述べた。ネタニヤフ首相は、2国家解決案かどうかは「ラベル貼り」に過ぎず、実質的な中身が大切だとして、①パレスチナ側がイスラエルをユダヤ人国家と認めイスラエルを破壊するとの主張をやめること、②イスラエルがヨルダン川の西側地域全体の安全保障問題を掌握すること、の2点が重要であると述べた。トランプ大統領は、イスラエルとパレスチナに加えて、アラブ諸国が交渉に参加する形での和平交渉を考えていることを強く示唆した。また同大統領は、入植地については、イスラエルの自制を促した。ネタニヤフ首相は、14日にティラーソン国務長官らと、16日には、ペンス副大統領らと会談している。
評価
15日の共同記者会見で、トランプ大統領がパレスチナ問題の2国家解決構想を放棄したかもしれないと思わせる発言があったが、大統領の発言の真意はまだ不透明である。トランプ大統領が2国家解決案に言及したのは、記者からの質問に答える形で行なわれたものである。トランプ大統領が強調したのは、交渉当事者が合意するのであれば、自分は2国家解決方式でも1カ国解決方式でも解決の形にはこだわらないとの立場である。この発言は、トランプ大統領が、2国家解決案を放棄したと見ることもできるが、政治的解決の選択肢の中から2国家解決案を排除したとまでは踏み込んでいない。イスラエルの右派と極右は、パレスチナ国家を議論する時代は終ったと喜んでいるが、専門家とメディアの解釈は分かれている。翌16日、米国のハーレイ駐国連大使は、政策の見直しをしているが、米国は2国家解決案を支持していると明言した。また16日には、パレスチナ自治政府の外務省が、米国は対中東政策を検討している段階にあるとの冷静な認識を表明している。前日の15日にCIAのマイク・ポンペオ長官が西岸ラーマッラーを訪問して、アッバース大統領と会談しており、トランプ政権の考えを聞いていたのかもしれない。中東和平問題も含めた、トランプ政権の対中東政策が固まるまでは、もう少し時間がかかるだろう。
15日の記者会見で、トランプ大統領が強く示唆したのは、イスラエルとパレスチナの直接交渉だけでなく、アラブ諸国もその交渉に参画させる形の交渉を考えていることである。トランプ政権筋は、メディアとの会見で、ヨルダン、エジプト、サウジなどの穏健派諸国を交渉に参加させる構想を表明している。アラブ・イスラーム諸国は、イスラエルとパレスチナが和平に合意すれば、その後にイスラエルとの関係を正常化する用意があることをすでに表明している。米国が、この段取の順番を逆あるいは同時並行的に考えているのであれば、アラブ諸国がすんなりと承諾するか疑問である。一方、ネタニヤフ首相は、アラブ諸国は、イランの脅威に対抗するため、イスラエルを敵ではなく同盟国と見なすようになったとの認識を示した。同首相は、この数年、この見方を頻繁に表明している。イランの影響力増大を警戒する湾岸諸国が、イスラエルとの関係を強化しようと考えるのは自然だろう。すでに秘密の接触が開始されていても不思議ではない。問題は、この関係を公式化できるかどうかである。ネタニヤフ首相は、パレスチナ問題を棚上げにして、湾岸諸国とイスラエルの関係を公式に強化できると考えているかもしれないが、そのようなリスクを湾岸諸国が取るかは大いに疑問である。
(中島主席研究員 中島 勇)
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