中東かわら版

№174 イスラエル:国会の「入植地合法化法案」採択とその意味

 2月6日夜、イスラエル国会は、西岸のパレスチナ人私有地に建設された入植者の不法住宅を合法化する「入植地合法化法案」を賛成60、反対52で可決した。ネタニヤフ首相は、英国を訪問してメイ首相と会談した後、帰路の途中であり採決を欠席している。「入植地合法化法案」は、与党「ユダヤの家」が昨年11月に国会に提出した法案で、当初から問題視されていた。ネタニヤフ首相は、同法案の国会提出を数回延期させ、国会に提出された後は、採決の延期を働きかけていた。外国メディアの反応も早く、昨年11月17日には米国の『NYT』紙が社説で同法案の国会提出を批判していた。

 「入植地合法化法」は、西岸のパレスチナ人私有地に不法に建設された入植者の住宅について、その土地を一旦政府の土地管理委員会の管轄とし、パレスチナ人地主に対しては、代替地を提供するか割り増し価格で一定期間賃貸することで、住宅の存在を合法化するものである。対象となる住宅は(イスラエルの基準で)合法的な入植地と不法入植地にある合計数千軒(報道では2000軒~4000軒)となる。国会審議の段階で、検事総長が国際法に違反するとの考えを示しており、最高裁で審議された場合、違法と判断されるといわれている。法案が国会で採決された翌7日には、西岸の地方自治体の依頼を受けたイスラエルのNGOなどが最高裁に違憲審査の訴訟を起こしている。

 米国のトランプ政権は、同法案採決について特段のコメントをしておらず、ホワイトハウス報道官は、2月15日にトランプ大統領がネタニヤフ首相と会談する際に議論されるとしている。米国は、イスラエルの最高裁の判断が出るのを待っているとも報道されている。上院議員ダイアン・ファインスタイン(民主党、カリフォルニア州選出のユダヤ人)が、同法案採択は2国家解決を損なうと述べている。EU諸国、トルコ、ヨルダン、エジプト、カナダ、日本なども同法案採択を批判している。ドイツ外務省は、イスラエル政府が2国家解決案にコミットしていることへの信頼の基礎を揺るがすと批判している。

評価

 「入植地合法化法案」で問題視されているのは、その内容以上に、イスラエル国会が主権の及ばない占領地(西岸)のパレスチナ人の私有地に関する法案を採択したことである。もし「入植地合法化法」が発効して西岸に適用された場合、イスラエルの主権が西岸に及ぶ先例になる可能性がある。こうした背景があるため、パレスチナや周辺アラブ諸国、EUなど国際社会が、同法に強く反発している。

 他方、「ユダヤの家」党が国会採決を強行した動機は、2月はじめに西岸で不法入植地アモナが強制撤去されたことがある。「ユダヤの家」党は、アモナ強制撤去に際して何もしなかったと支持者である極右活動家や入植者らの突き上げに直面しており、彼らをなだめるため早急に何らかの行動を示す必要があった。「ユダヤの家」党は、同法案の国会採決にはこぎつけたが、最高裁が違憲判決を出すと予見しているようだ。シャケット司法相(「ユダヤの家」党)は、すでに最高裁判事の選出方法を変更しようとして最高裁と軋轢を起こしている。極右政党である「ユダヤの家」党が、最高裁が西岸併合の障害になると見ているのは確かだろう。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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