中東かわら版

№173 アフガニスタン:最近の治安情勢

 アフガンにおける治安の悪化が、最近深刻さの度合いを増しているように思われる。201721日には、AFPなどがアメリカ政府のアフガン復興担当特別監査官の報告書を基に、201611月半ばの時点でアフガン政府の支配力が及ぶ地域は同国全土のうち57%ほどに過ぎないと報じた。最近も国際的な関心を惹く事件が複数発生しており、主な事件は以下の通りである。

 

  • 2016年12月21日、カブール市で国会議員宅に対する自爆攻撃が発生。「ターリバーン」がヘルマンド州選出の国会議員、及び同州の敵軍の幹部の会合を攻撃し、会合を失敗させたとの犯行声明を発表した。

  • 2017年1月10日、カブール市で治安機関の将校らを乗せたバスに対する自爆攻撃が発生。「ターリバーン」が犯行声明を発表した。

  • 2017年1月10日、カンダハル市のカンダハル州知事宅で爆破事件が発生し、UAEの外交官らが死傷した。「ターリバーン」は事件への関与を否定する声明を発表した。

  • 2017年2月7日、カブール市で裁判所(注:報道によると最高裁。「イスラーム国 ホラサーン州」によると控訴裁判所)に対する自爆攻撃が発生。「イスラーム国 ホラサーン州」が犯行声明を発表した。

画像:28日のカブールでの控訴裁判所(声明文のママ)に対する自爆攻撃についての「イスラーム国 ホラサーン州」の犯行声明。「アブー・バクル・タージーキーがカブール市で圧政控訴裁判所で爆弾ベストを用いて判事や裁判所の職員を爆破した。これにより、背教者約60名を殺傷した。圧政判事をはじめとする背教者共は、十字軍に奉仕して一神教徒のムジャーヒドゥーンに対して下された不信仰判決が、厳しい懲罰無しには済まされないことを思い知れ。」との内容。

 

  • 2017年2月8日、ジャウズジャーン州で赤十字国際委員会の車列が襲撃され、アフガン人職員少なくとも6名が死亡した。「ターリバーン」は事件との関与を否定する声明を発表した。

 

評価

 アフガンにおいては、通常冬季はいずれの紛争当事者も軍事行動を減らしていたが、最近では地方でも暗殺や襲撃事件が多発している模様である。上記の報道ではアメリカの報告書が何を基準に「政府の支配力が及ぶ」と判断しているのか判別できないが、カブールでも自爆攻撃が頻発している現状に鑑みれば、「政府の支配力が及ぶ」地域はより狭いように思われる。

 「ターリバーン」が例年発表する春季攻勢開始に関する声明では、攻撃対象として外国人や外国権益に対する言及が年々低下する傾向にある(『中東かわら版』 2016年度第9号)。この傾向に沿ってアフガンで活動する外交団や国際機関・援助団体に対する「ターリバーン」の攻撃の危険性が著しく低下する保証はない。しかし、カンダハルでの爆破事件や赤十字国際委員会の車列襲撃への関与を否定するなど、「ターリバーン」がテロリズムを採用した結果、国際的脅威と認識されることを避けようとしていることが窺える。一方、「イスラーム国 ホラサーン州」は、「ターリバーン」を愛国主義運動であると主張し、「ターリバーン」がイスラーム的に正当でないと非難している。こうした態度は、7日の裁判所爆破事件の実行犯を「タジク人」と称していることにも象徴されている。「イスラーム国 ホラサーン州」は、アフガンでの闘争を地元住民の問題としてではなく、世界中のムスリムの問題として認識し、世界中から闘争に必要な資源を調達しようと考えているようである。「イスラーム国」は広報誌『ルーミーヤ』のパシュトゥー語版を刊行するなど、地元住民に対する働きかけを軽視しているわけではないが、愛郷心や民族意識などを全面的に否定しつつ地元の支持を得るのは容易ではない模様である。また、イスラーム過激派の主な担い手であるアラブのムスリムにとっては「僻地」ともいえるアフガンでの闘争のために、外部から十分な資源を調達できるかという課題もある。アフガンにおける「イスラーム国」の消長は、こうした課題にいかに対処するかにかかっているだろう。

 8日の赤十字の車列に対する襲撃事件のような事件が発生すると、援助活動に対する攻撃は許されないとの趣旨の非難の声が上がる。しかし、「ターリバーン」や「イスラーム国」のような思考・行動様式を持つ運動が、外交団、報道機関、国際機関、援助団体なども「侵略者」、「反イスラーム」とのレッテルを貼り積極的に攻撃する場合もありうる。「攻撃する側」が「攻撃される側」の倫理に従うとは限らないことには引き続き留意すべきである。

(イスラーム過激派モニター班)

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