中東かわら版

№171 イラン:弾道ミサイル発射実験を巡る米国との対立

 1月29日にイランで弾道ミサイル発射実験が行われたことを受けて、2月3日、米財務省は25のイランの個人・団体を新たに制裁リストに加えることを発表した。フリン米国家安全保障担当大統領補佐官は、「2015年にオバマ政権がイランとJCPOAで合意して以来、イランの好戦的で非合法な行動は増加していった」、「国際社会はイランの悪い行動に対してあまりに寛容であった」と述べ、「トランプ政権は我々の国益を脅かすイランの挑発をこれ以上許容することはない」とイランに警告した。また、2月2日にはトランプ米大統領が「あらゆることが選択肢にある」と述べ、軍事行動も選択肢にあることを示唆した。2月4日、マティス米国防長官も、イランは世界最大のテロ支援国家であり、「レバノンからシリア、バハレーン、イエメンにおいて誤った行動をしてきた」、「これについてはある時点において対処がなされる」と述べたものの、現時点では中東地域の米軍の数を増やす必要性はないとの見解を表明した。

 イラン側では米国の制裁を批判する声が上がっており、2月4日にはイラン国会のボルージェルディー国家安全保障・外交政策委員会議長が米国の新たな制裁はJCPOAに違反するものであると述べた。また、イラン外務省は、2月3日に報復措置としてアメリカの個人・団体に対する制裁を発動するとの声明を発出した。また、革命防衛隊は2月4日にセムナーン州においてミサイルの発射を伴う防空軍事演習を行い、ハージーザーデ革命防衛隊司令官は、「もし敵が誤った行動をするのであれば、我々のミサイルが彼らに降りかかることになるだろう」と述べた。

 

評価

 イラン核合意に対するトランプ政権の立場は、大統領選の際の主張から若干の軟化が見られる(詳細は「イラン:トランプ政権と核合意を巡る議論」『中東トピックス』No.16-10(2017年2月1日)を参照)。今回の制裁についても、オバマ政権期にも行われていた対応のラインを外れるものではなく、過激な言説とは裏腹に抑制的な対応が続いている。もっとも、この抑制的な対応がトランプ政権の政策方針となっているかどうかはまだ判断が難しい。経済制裁を主管するのは財務省であるが、財務長官の承認はまだ得られておらず、総合的な政策を進める体制がまだ出来上がっていない。フリン米国家安全保障担当大統領補佐官の声明や大統領報道官のブリーフィングを見ると、今回の制裁は初手となる措置に過ぎず、今後、イランに対して様々な形で強硬な対応がとられていく可能性は否定できない。

 イラン政府側も米国に無用な刺激を与えてイラン強硬策をとる口実を与えないためか、これまでに繰り返されてきた反論以上のものは示していない。革命防衛隊の軍事演習も通常の演習であり、軍事的な意味で懸念すべき動きがあったと見なすことは難しいだろう。しかし、トランプ政権から挑発的な発言が相次ぐようであれば、議会や革命防衛隊からも強硬な発言が出てきたり、ロウハーニー政権の外交政策への非難が強まったりすることになるだろう。特にミサイルの開発に関しては、国際社会から一切の制限がなされていない分野だとイラン国内では認識されているため、今後もミサイル発射実験や新たなミサイル技術のお披露目といった動きが続くことが予想される。

(研究員 村上 拓哉)

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