中東かわら版

№168 イスラエル:西岸の不法入植地をめぐる動き(3)

 2月1日、イスラエル当局は、最高裁が撤去を命令していた西岸の不法入植地アモナの強制撤去を開始した。警察官約3000人が強制撤去のため動員された。不法入植地アモナの住民に加えて、撤去に反対する入植者ら約1500人が座り込み抗議で抵抗した。抵抗する入植者らは、シナゴークに篭城したが、翌2日までに全員が強制退去させられた。医療機関の発表では、2日間の衝突で、警察官42人、入植者15人が軽傷を負った。最高裁は、アモナを2月8日までに撤去するよう命令している。

 ネタニヤフ首相は、不法入植地アモナの住民の一部を、隣接する土地に移動させようとしたが、代替地の地主が訴訟を起こし、裁判所が移転を禁止した。そのため2月1日、ネタニヤフ首相は、新しい(イスラエルの基準で)合法的な入植地を建設して、そこにアモナの住民を移転させるとした。新入植地については、委員会を設立し、同委員会が場所などを選定する予定である。政府が西岸に新規の入植地を作るのは、1990年初め以来と報道されている。

評価

 イスラエルの見方では、西岸の入植地は2種類に分類される。政府が建設した合法的な入植地と有志の入植活動家たちが許可なく建設した非合法入植地である。国際社会から見れば、占領地である西岸(東エルサレムを含む)に建設された入植地はすべて違法である。そのためイスラエル国内では、不法入植地撤去問題は大きな政治問題になるが、国際的にはイスラエル社会の内輪もめ以上の意味はないだろう。

 合法的な入植地を建設する場合、パレスチナ人の私有地をイスラエル軍が接収する。他方、不法入植地の場合、入植者らがパレスチナ人の私有地に無断で入り込み、不法占拠して入植地を建設する。アモナの場合、パレスチナ人地主が、イスラエルの裁判所に訴えを起こし、最高裁がパレスチナ人の私有地から入植者らを退去させるよう命令した。今回の強制撤去で、現在の不法入植地アモナは解体されるが、しばらくしたら、近くの別の場所に、新たな不法入植地アモナ2が建設される可能性は高い。西岸で約100カ所あるといわれる不法入植地の中で、アモナはシンボル的な存在とされているためである。

 今回強制退去させれた入植者と支援者たちは、逮捕されるわけではない。警察は、強制排除にあたり、負傷者を出さないように細心の注意を払っている。入植者たちの抵抗も非暴力的であり、彼らは自分たちが強制排除される姿をイスラエル国民や自分たちの支持者に見せることが最大の目的である。極右政党「ユダヤの家」の国会議員らは、撤去に反対する入植者らを「英雄」と賞賛し、既存の不法入植地の合法化や西岸のイスラエル併合を進めると気勢を上げている。強制退去を命令したネタニヤフ首相は、不法入植地アモナを追い出された住民に共感を示し、彼らのために、合法的な入植地を1カ所を新設することを決めている。不法入植地アモナ撤去騒動の結末は、合法的な入植地が1カ所増えることだけになるかもしれない。

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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