中東かわら版

№166 アメリカによる入国規制への反応

  2017年127日、アメリカのトランプ大統領はイラン、イエメン、シリアなど中東・アラブ諸国7カ国からの来訪者について、査証を所持している者でも3カ月間入国させないとの大統領令と、シリア難民の入国を無期限で禁止する大統領令を発出した。既にアメリカ国内やEU諸国、国連などからこの措置に対する様々な反応・抗議行動が伝えられているが、入国禁止措置の対象国など、中東諸国・社会の主な反応は以下の通り。

 

  • シリアのムアッリム外相は30日のUNHCRのグランディー高等弁務官との会談で、シリア難民に帰還するよう改めて呼びかけた。

  • イラクのジャアファリー外相は30日の駐イラク・アメリカ大使との会談で、イラクが民主的な国であり、「イスラーム国」などのテロリズムとの戦いで多大な犠牲を払っていると指摘、アメリカによる入国禁止措置に疑念を表明した。また、イラクの国会ではアメリカに対し同様の対抗措置をとるよう求める声が上がった。

  • 28日、イエメンの外務省(フーシー派)筋は、「出入国管理はアメリカ政府の主権的権利である。しかし、テロ対策やイスラーム過激派対策の名の下で特定の国をテロの源と定め、その国民を対象とする措置をとるならば、一部の逸脱者の行為を全員の責任にしてしまわないよう、一層の評価と再検討が必要だ」と論評した。また、同筋はイエメンとその国民をテロの源と分類する試みにはいかなる合法性も正当性もないと強調した。

  • 29日、イエメンの外務省(ハーディー前大統領派)筋は、イエメンこそがテロの被害に苦しむ国の筆頭であるとして今般の措置に不快感を表明した。

  • ベイルートのアメリカ大学(AUB)のファドルー・フーリー総長は、「今般の大統領令は万人の自由と公正という確固たる価値に反する。これらの価値はアメリカの先人たちがそれを守るために闘い、アメリカ憲法で定めた価値だ」との旨の声明を発表した。

 

評価

 トランプ大統領は今般の措置を「アメリカ人をテロ攻撃から守るために役立つ」と述べており、この措置はイスラーム過激派などがアメリカ国内で攻撃を起こすことを防止することを意図したものであろう。確かに、「イスラーム国」やアル=カーイダを念頭に置いた場合、アメリカやEU諸国、アラブ諸国、東南アジア諸国、旧ソ連諸国など、イスラーム過激派がヒト・モノ・カネなどの資源を調達する場としてきた諸国が、国内の犯罪対策としてイスラーム過激派の資源調達活動や広報活動を取り締まる必要がある。特に、近年アメリカやEU諸国で発生した襲撃事件などを見る限り、今般対象となった諸国の国籍を持つ者が関与した事件というよりは、事件が発生した国の国内に既にイスラーム過激派の組織的基盤やネットワークがある程度構築されており、それを基に作戦を実施したり、イスラーム過激派や今般入国が禁止された諸国との関係が希薄な模倣犯・自己顕示目的の者が事件を起こしたりする事例のほうがが多いように見受けられる。また、2001年の9.11事件についても、事件の実行犯は今般対象となった諸国とは関係が薄い者たちであるし、彼らは一定期間アメリカ国内で作戦の準備をした上で犯行に及んでいる。アメリカ国内での監視や追跡、警備等についても対策を講じることこそが、同種の事件を防止する上でより重要であろう。「特定の属性の者を入国させない」という措置はテロ対策、治安対策としては狭小で不十分な措置であり、共鳴者や模倣犯による犯行は防止できない。また、過去5年間を見ればトルコやヨルダンのようにイスラーム過激派の資源移動の経由地となっている諸国がより厳しい出入国管理を行うことも極めて重要である。しかし、各国がイスラーム過激派対策としてとるべき対策は、扇動、勧誘、資金の調達や移動など多岐にわたり、特定の国の国籍を持つ者の入国を禁じればよいというものではない。

(髙岡上席研究員)

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