中東かわら版

№165 クウェイト:サバーフ・ハーリド第一副首相のイラン訪問

 1月25日、クウェイトのサバーフ・ハーリド第一副首相兼外相はイランを訪問し、ロウハーニー大統領、ザリーフ外相とそれぞれ会談した。同第一副首相は首長特使として派遣されており、イラン・湾岸諸国関係に関するサバーフ首長発大統領宛の書簡をロウハーニー大統領との会談中に手渡している。訪問に先立つ1月24日、同第一副首相は「イランと正常かつ公正な関係を持つことを望む」と述べ、「対話のチャンネルを開くことは双方の利益になる」と主張した。1月17日にはロウハーニー大統領が、「イラク、クウェイトの他に8から10の国」がイランとサウジアラビアとの間の仲介を申し出たことを明らかにしており、今回のサバーフ・ハーリド第一副首相のイラン訪問もその一環と見られている。

 なお、クウェイトは2016年初頭にサウジアラビアがイランと断交した際に駐イラン・クウェイト大使を召還させており、現在に至るまで大使をイランに戻していない。

 

評価

 湾岸地域ではスンナ派の湾岸諸国とシーア派のイランとが対立しているという言説が流布しており、特に2016年初頭のサウジ・イラン国交断絶でその構図が殊更に注目されるようになった。しかし、湾岸諸国の間でもイランへの対応には温度差があり、宗派の違いに過度に依拠した分析は地域情勢の趨勢を見誤ることにつながりかねない。90年代以降、クウェイトとイランの関係は、ときに緊張することはあったものの、概ね良好な関係が継続しており、2014年6月にはサバーフ首長によるイラン訪問が実現している(詳細については「クウェイト:サバーハ首長のイラン訪問」『中東かわら版』No.40(2014年6月3日)を参照)。また、2016年のサウジ・イラン国交断絶においても、バハレーンがサウジに追随してイランと国交断絶し、UAEが外交関係の格下げを行ったのに対して、クウェイトは大使の召還にとどまっている(同時期における各国の対応については「サウジアラビア・イラン:国交断絶を巡る周辺国の動き(2)」『中東かわら版』No.148(2016年1月7日)を参照)

 従って、クウェイトがサウジとイランの間で仲介を行っていることは、クウェイト外交の規定路線と言えよう。また、これまで二国間と友好的な関係を築いてきたクウェイトが両者にとって信頼できる仲介役であることも疑いない。しかし、こうした仲介の動きは、サウジ・イラン間の緊張緩和に資するものであるとしても、両者の関係が抜本的な改善に向かうことまでは期待できない。サウジ側はイランによるイエメンのフーシー派への支援やバハレーンへの干渉といった地域外交政策を国防上の脅威と認識しており、イランのこうした政策に変化が見られない限り、サウジがイランに妥協していると見られるような態度を示すことはないだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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