№162 シリア:ロシア軍によるタルトゥース基地使用に関する合意
ロシア政府は、2017年1月18日に発効したシリア政府との間のタルトゥース港の海軍基地使用に関する合意を発表した。なお、両国は2015年9月にロシア軍がラタキア県のフマイミーム空港を使用する件ついての合意も締結している。タルトゥース港の使用についての合意の要旨は以下の通り。
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基地の使用期限は49年間で、合意違反がない場合は自動的に延長することが可能。
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ロシアは整備・補給拠点を無償で設置・使用することができる。また、基地の動産・不動産・駐留部隊には完全な免責特権が付与され、シリアの法律は適用されない。シリア当局は、基地の司令官の事前の同意がなければ施設に立ち入ることができない。
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タルトゥース基地の埠頭を拡張し、ロシアは原子力船舶を含む11隻の艦艇を配置することができる。環境保護はロシアが担当する。
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タルトゥース港の警備を行うため、ロシアは基地の外に固定的でない拠点を設置することができる。拠点の設置はシリアに計画を通知して行う。
評価
タルトゥース港の基地の使用条件はロシアにとって非常に有利なものであり、ロシアは同基地を従来の補給・技術拠点から本格的な海軍基地に転換する方針の模様である。それに伴い、既にタルトゥース基地に配備されているS-300型地対空ミサイルに加え、P-800、Kh-35などの新型の地対艦/艦対艦ミサイルを配備する見込みである。ロシアは、フマイミーム空港についても無期限の使用合意を締結しており、S-400型地対空ミサイルなどを配備している。今般の合意により、ロシアはシリア領内、すなわち地中海東岸地域に強力な空軍基地、海軍基地を確保したことになる。
本格的なロシア軍の基地が設置されたことにより、基地使用合意の当事者であるシリア政府には外国からの軍事侵攻や政権打倒の試みに対し相当程度安全を確保できるようになる。しかし、基地使用の条件があまりにもロシアに有利であるため、ロシアによるシリア紛争への関与やシリア領内での活動について「ロシアによるシリアの占領」であると主張する「反体制派」などの非難が高まることとなろう。
(主席研究員 髙岡 豊)
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