中東かわら版

№159 エジプト:最高行政裁判所がサウジへの2島引渡し合意を無効と判決

 1月16日、最高行政裁判所は、2016年4月にエジプトとサウジアラビアとの間で合意されたティーラーン島及びサナーフィール島のサウジへの引き渡しについて、同合意を無効とし、2島をエジプト領と確認した2016年6月の行政司法裁判所判決を支持した。今回の判決についてはこれ以上上告できないため、これが最終判決となる。

 2016年4月にサウジのサルマーン国王がエジプトを訪問した際、両政府は、サウジがエジプトに5年間にわたり70万トン分の石油製品を提供すること、上記2島がサウジ領であることで合意していた。同合意に対してエジプト国内では大きな反発が巻き起こり、世論や政界において、2島はエジプト領であり、エジプト政府はサウジからの経済支援と引き換えに領土を売ったとの批判が広まった(『中東かわら版』2016年4月11日No.718日No.12を参照)。

 この問題について人権団体出身のハーリド・アリー弁護士らは、司法の場で証拠にもとづく正当な議論を政府と行うことを選択した。彼らは、2島がエジプト領であることや合意が無効であることを訴えて、政府を相手取り行政司法裁判所に提訴した。2016年6月、同裁判所は原告の訴えを認め、合意を無効とする判決を下した。

 政府はこの判決に対して、下記表にあるとおり3つのレベルで対応した。①行政司法裁の無効判決に対して最高行政裁に上訴し、②最高憲法裁には国家間合意という主権行為に関わる問題は行政裁の管轄ではないと訴え、③行政司法裁には最高憲法裁での審理が結審しない間は6月の無効判決の執行を停止すべきと訴えた。

 今回の最高行政裁の判決は①の訴訟に関する最終判決であり、2島引き渡し合意をめぐるその他の裁判はまだ続いている。

 

評価

 2島引渡しという合意は唐突に発表された感は否めない。政府内であらかじめ議論された形跡はなく、議会内にも反対意見が少なからず存在する。政府は2島が本来はサウジ領であることを示す歴史的証拠があると主張しているが、エジプトが2013年以来サウジから多額の経済支援を受けていることの対価として2島の引き渡しが合意されたのではないかという見方は、現在のエジプト・サウジ関係を見ると妥当な議論に思われる。エジプトは、サウジから経済支援の提供を受ける一方で、サウジの関与するイエメン紛争やシリア紛争においてサウジが求める地上軍の派遣やサウジの立場の擁護をしておらず、エジプト・サウジ関係に明らかな偏りが見られるからである。

 もし2島引き渡し合意がこのようなエジプト・サウジ関係を背景に行われたのならば、合意無効判決はエジプト政府にとって対サウジ関係をさらに悪化させるものになる。他方、今後の訴訟で合意を正当とする判決が出た場合は、シーシー政権に反対する世論が大きくなるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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