中東かわら版

№156 イスラエル:エルサレムでのトラック暴走テロ

 

 1月8日、エルサレムの旧市街付近で、東エルサレムのパレスチナ人が運転するトラックがイスラエル軍兵士の列に突っ込み、兵士4人(男性1、女性3)が死亡、17人が負傷した。兵士らは士官候補生たちで、視察旅行の途中だった。トラックの運転手は、その場で兵士らに射殺された。現場の兵士らは、事件発生当初、事故かテロかわからなかったようであるが、トラックが兵士らをなぎ倒した後、運転手が車をバックさせて再び兵士らを轢こうとしたためテロと判断して射殺した。運転手は、東エルサレムに在住する子供が4人いる男性(28歳)で、家族によれば特定の政治組織や宗教団体に所属していないが、ユダヤ人活動家らによるイスラームの聖地に対する扇動行為に反発していたようだ。現場を視察したネタニヤフ首相は、すべての証拠が「イスラーム国」の支持者による犯行であることを示しているとし、ドイツやフランスでのトラックを使った同様のテロと共通するとの見方を示した。一方、イスラエル軍や警察は、「イスラーム国」について言及していない。事件後、2015年10月にエルサレムでバスの乗客3人を殺害した後射殺されたパレスチナ人の名前を取った組織名での犯行声明がメディアに対して送られたが、その組織が実在するか否かは不明である。イスラエル警察は、犯人の家族、親戚を拘束し、同人の家を破壊する旨を家族に通告した。

 車を使ったパレスチナ人によるイスラエル人攻撃は、散発的に起きているが兵士4人を殺害するようなケースは今回が初めてである。

評価

 パレスチナ人運転手による、車を使ったイスラエル人攻撃は、西岸・東エルサレムではすでに広く認知された方法である。車による攻撃は、台所にある包丁や家にあるナイフを使った襲撃と同じで、日常生活で使われる道具による暴力行使であり、イスラエル側が効果的に規制することは難しい。また個人による突発的な行動であれば、その行動を阻止することはさらに困難になる。今回の事件後、東エルサレムの一部地域の道路にコンクリートの固まりを置いて、パレスチナ人の車のエルサレム侵入を阻止する対応策が取られたようであるが、この措置も長期間継続するのは難しい。イスラエル側は、すでに行なっている犯人の家破壊に加えて、家族の国外追放、親族が持つイスラエル市民としての特典の停止措置などを検討しているようである。しかし、東エルサレムの住民に対するさまざまな厳罰措置はすでに導入済みであり、さらに締め付けを強化してもパレスチナ人の反発が増加するばかりで効果は期待できないだろう。ネタニヤフ政権は、パレスチナ問題について「現状維持」を図ろうとしている。米国、EUなどは「現状維持」は機能しないと主張している。今回の事件は、「現状維持」は機能しないことの一つの証左だろう。

 

 

 

(中島主席研究員 中島 勇)

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