中東かわら版

№152 オマーン:第2回地方議会議員選挙の実施

 12月25日、第2回地方議会議員選挙が実施された。地方議会は、2011年に発生した抗議活動での要望を受け、2011年10月に設立が決定したもの。2012年12月に第1回目となる選挙が実施された。議員の任期は4年であり、今回の選挙は議員の任期終了に伴うものである。

 内務省の発表によると、今次選挙では62万3224人(うち男性が33万3733人、女性が28万9491人)が選挙人登録をしており、前回の選挙から約10万人登録者が増加している。立候補者数は731人(うち女性23人)で、議席数は202席。投票の結果、143人の新人議員が誕生したほか、7人の女性議員が議席を確保した。

 選挙翌日、選挙委員長を務めるハーリド・ブーサイーディー内務次官は、投票率が39.85%(うち男性が63.2%、女性が36.8%)だったことに関し、「投票率が低いと断定するにはまだ早い。これはまだ二期目である」、「期を重ねていくごとにシステムは成長するだろうし、地方議会の役割も増していく」と述べた。

 

評価

 オマーンにおける地方議会は、条例を制定するような権限は与えられておらず、地方自治や地方分権を進めるための機関というよりも、地方の声を聴取するための諮問機関の側面が強い。また、オマーンでは政治団体の結成が認められていないため、地方議会選挙の勝利者を分析することによってオマーンの政治的潮流を観察するということも難しい。選挙区は61の州毎に区分けがされているため、地元の名士や有力部族の代表者が勝利しやすい構造になっているからである。

 そういう構造的な制限がありながら、今回の選挙で女性の候補者が7人当選したことは、画期的なことである。ブライミー行政区のスナイナ州では、2議席とも女性の候補者(マリヤム・シャームシーヤ、ラティーファ・マニイーヤ)が当選を果たしたが、諮問議会も含めて州の代表が女性で占められたことはオマーンの歴史上初のことである。

 一方、ハーリド内務次官が留保したように、投票率の低さは懸念材料である。政府発表の投票率は39.85%であったが、これは選挙人登録者を分母とした数値であり、潜在的な有権者(軍、治安関係者を除いた21歳以上のオマーン人)を分母とすれば、投票率は推計で23%まで下がる。「アラブの春」の影響を受けた抗議活動の直後に行われた2011年の諮問議会選挙では投票率が一時的に大きく高まったが、下表に示したとおり、2012年地方議会選挙、2015年諮問議会選挙と、実質的な投票率は低い状態での推移が続いている。政治参加の水準が低いということは、国民が議会を問題解決に資する機関として認識していない可能性を示唆しており、議会を通じて政治的な正統性を確保しようとする体制の目論見が外れていることになる。傾向として議会の権限は漸進的に拡大しているが、原油価格の下落により配分政治が困難に直面している今、議会改革を進めることは急務であろう。

 

表:2011-2016年の選挙結果概要

注:2012年地方議会選挙では選挙人登録後、IDカードの更新が必要であった。括弧内の数字はカード更新者数で、政府発表の登録者数に対する投票率もカード更新者数を分母としている。

 

(研究員 村上 拓哉)

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