中東かわら版

№151 イスラエル:入植政策を批判する安保理採決で米国が棄権

 12月23日、国連安全保障理事会は、イスラエルがパレスチナ占領地で進めている入植活動を批判し、活動の即時停止を求める決議(2334号)を賛成14、反対ゼロ、棄権1(米国)で採択した。安保理が、イスラエルの入植政策を批判する決議を採択したのは36年ぶりとされた。

 イスラエルの入植活動を批判する決議案は、エジプトが起草した。12月22日時点では、エジプトが同案テキストをメンバー国に根回ししており、採決は23日に行なわれると報道された。同日、西側外交筋の話として、オバマ政権は同決議案を安保理に採択させる方針だと報道され、ネタニヤフ首相はビデオ演説を公表し、米国政府に同案を拒否するよう求めていた。イスラエル政府は、その後、トランプ次期大統領の政権移行チームと接触し、トランプ次期大統領に対して、エジプトに決議案の採択の中止を働きかけるよう要請した。トランプ次期大統領あるいは移行チームがエジプト側と接触し、22日、シーシー大統領は、国連のエジプト代表団に決議案の採決延期を指示した。同延期後、シーシー大統領とトランプ次期大統領が電話で会談し、両者は米国の次期政権に中東和平問題に仲介する機会を与えることで合意したと報道されている。エジプトが決議の採択延期を決定した翌日の23日、今度は、安保理の非常任理事国4カ国(ニュージーランド、マレーシア、ベネズエラ、セネガル)が安保理に対して、エジプト案を採決をするよう要請した。同4カ国の要請を受け、安保理は23日夜、会合を開催し、イスラエルの入植政策を批判する決議案の採決を行ない、米国が棄権を表明した。

 イスラエルは、決議案の作成と採択の背後にオバマ政権がいると主張して、米国を激しく非難している。ネタニヤフ首相は、同決議は反イスラエル的決議であり、次期米国政権と協力して決議を無効にすると息巻いている。米国家安全保障会議(NSC)幹部は、採決後の記者会見で、米国はエジプトが作成した決議案文書に関係していないこと、ネタニヤフ首相は、過去何度も、米国政府から公式・非公式に入植政策について警告されていたと述べている。ケリー国務長官は、米国は2国家共存の可能性を守るために行動したと述べた。トランプ次期大統領は、同決議採択を批判し、具体的な意味は不明であるが、自分が大統領に就任する1月20日以降、国連の状況は変わるとツイッターに書き込んだ。

  イスラエル政府は、安保理の採決を要請したニュージーランド、ベネズエラに駐在する自国の大使を本国に召還したほか、セネガルの外相のイスラエル訪問を中止し、同国に対する援助を停止した。また採決で賛成をした日本を含む14カ国中12カ国の駐イスラエル大使を外務省に呼び出したほか、ネタニヤフ首相がシャピロ駐イスラエル米国大使と会談して、直接抗議している。25日、ネタニヤフ首相は、リクードの閣僚らに、オバマ大統領の任期が終了するまで新たな動きがあるかもしれないと警戒を呼びかけ、入植地建設や西岸併合について公の場で発言しないよう指示した。他方、25日の報道によれば、米国のケリー国務長官が年内に中東和平問題に関する演説を行い、ケリー国務長官の和平提案を公表する。

評価

 オバマ大統領のネタニヤフ政権に対する我慢が、ついに耐えうる限界を超えたのだろう。オバマ大統領は、23日の朝、安保理の採決で棄権することを指示したと報道されている。ネタニヤフ首相は、米国との関係は堅固であり、良好な対米関係の維持に絶対の自信を見せてきた。しかし、オバマ大統領が一旦、採決での棄権を決断した後、ネタニヤフ首相にできたのはトランプ次期大統領にエジプトに対して決議採択の延期を要請することだけだったようだ。ネタニヤフ首相には、オバマ大統領の考えを変えさせる意志も能力もなく、ロシア、中国など常任理事国に拒否権行使を促す力もないことがはっきりした。またエジプトに対して決議案の取り下げや採決延期を直接要請したとの報道もない。他方、決議採択後には、ネタニヤフ首相は、オバマ政権がイスラエルを見捨てたと激しい米国政権非難を繰り返しつつ、次期大統領はイスラエルを支援するとの期待を表明している。イスラエル国民、野党からは、今回の外交的敗北の責任を追及する大きな声は上がっていない。左派系新聞『ハアレツ』紙は、ネタニヤフ首相は、今回の外交的失態で外相(ネタニヤフが兼任)を更迭すべきだと論評しているほか、複数のメディアは、首相はイスラエルは世界の多くの国からの支持を受け、国際社会での発言力や評価が高まっていると主張してきたが、それは幻想だったとネタニヤフ首相を批判している。

 ネタニヤフ首相は今回の決議に強く反発しているが、今回の決議の内容に特段の新味はなく、米国を含む国際社会がこれまでイスラエルの入植政策について主張してきたことを、改めて確認しただけである。米国のサマンサ・パワー国連大使は、国際社会の入植地に関するコンセンサスが再確認されたと述べている。パレスチナ自治政府のアッバース大統領は、今回の決議でパレスチナ問題が解決するわけではなく、解決のための法的規定(入植地は国際法上、違法であること)を確認しただけだとした。ハマースは決議を歓迎したが、西岸やガザの住民が街頭に繰り出して喜ぶような動きはまったくない。

 今回の決議が破壊したものがあるとすれば、イスラエルが抱いていた、イスラエル政府がどんな行動・決定をしても米国政府は、常に国連でイスラエルを擁護するはずだという期待・幻想かもしれない。ネタニヤフ政権は、トランプ次期政権は、自分たちの希望に応えてくれると期待しているようだ。次期共和党政権は、イスラエル寄りの政策を進めると考えられているが、今後の選挙で民主党が政権を取った場合はどうなるか不明である。米国の政権を民主党が取るか、共和党が取るかで、米国の対イスラエル政策が変わるようになるとすれば、「米国とイスラエルの特殊な関係」の中身は確実に変質する。これまでの米国のイスラエル支援は、超党派的であることが前提となっていたが、その条件が変わるからだ。オバマ政権の今回の対応について、在米ユダヤ団体の評価は分かれており、リベラルなユダヤ人と保守的なユダヤ人の間での反応も分裂している。今回の安保理決議をめぐる米国とイスラエルの対立は、米国とイスラエルの伝統的な友好関係の構造の深い部分で起きている変化の兆候の一つかもしれない。

 

(中島主席研究員)

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