中東かわら版

№149 リビア:シルトでの「イスラーム国」掃討作戦の終了

 12月17日、統一政府「国民合意政府」(GNA)のサッラージュ首相は、シルトで行っていた「イスラーム国」勢力に対する掃討作戦「堅固な建造物作戦」が終了したと発表した。同作戦を空爆によって支援していた米アフリカ軍(AFRICOM)も、21日、同軍による「オデッセイの稲妻作戦」が終了したと発表した。5月から開始された掃討作戦は、7カ月間で終了したことになる。

 リビアで「イスラーム国」を名乗る集団は、2014年末頃からトリポリ、ベンガジ、ダルナなどで武力攻撃を始めた。2015年には地中海沿岸中部の「石油の三日月地帯」と言われる石油輸出地域(ブレガ、ラス・ラヌーフ、シドラなど)を攻撃したことから、リビアにおける「イスラーム国」の脅威が国際的に認識されるようになった。特に同勢力が排他的に支配を確立した場所がシルトであり、シルトを拠点にミスラータやトリポリに同勢力の支配が拡大する恐れからシルトの「イスラーム国」勢力を駆逐する必要性が叫ばれ、2016年3月末のGNA成立後に、GNAを支持するミスラータの民兵を中心に「堅固な建造物作戦」部隊(以下「GNA部隊」)が結成された。

 掃討作戦は、地上でGNA部隊が「イスラーム国」勢力と交戦し、米軍が空から「イスラーム国」勢力の拠点や兵器を爆撃するという形で遂行された。GNA部隊の死者数は3210人、負傷者は712人に上った。

評価

 リビアの「イスラーム国」勢力は欧米諸国から大きな脅威と見なされたが、イラクとシリアの「イスラーム国」とは異なり資金が乏しいこと、カリフ制樹立の思想がリビアでは戦闘員や支持者の獲得に繋がりにくいことから、掃討作戦が比較的短期間で終結すると予想されていた。同勢力は石油施設を攻撃したものの制圧には失敗し、資金調達はもっぱら地元民からの金銭・物資の強奪、地元民や物流への課税に頼ったが、活動の維持に十分な資金源にはならなかったようである。イラクとシリアでは、「イスラーム国」は「スンニ派対シーア派」や「真のムスリム対背教者・不信仰者」という二項対立論でカリフ制樹立を正当化し、支持者や戦闘員の獲得に成功したが、リビアではこのような論理で地元民の支持を得られない。多様な部族が支配地域をめぐり複雑に対立しあう上に、イスラーム過激派においても「イスラーム国」のほかアル=カーイダ系組織や地元のイスラーム過激派が競合している。宗派対立はリビア紛争の主要争点ではなく、各種武装勢力間の協力・対立関係はめまぐるしく変化している。このような紛争構造において、「イスラーム国」の二項対立論はあまりに単純過ぎるし、魅力を持たない。

 シルトから「イスラーム国」勢力が駆逐されたが、これによってリビアの統一が促進されるとは言えない。GNA部隊の主力となったミスラータ民兵は、今後、リビア統一プロセスの中で将来の統一国家、特に国防・治安分野において重要なポストを主張するだろう。そうなると、東部の「リビア国民軍」及びハリーファ・ハフタル総司令官の利益と真っ向から衝突することとなる。「イスラーム国」からのシルト奪還は、米軍も関与して達成されたものの、リビア全体の分裂と混乱に何らポジティブな影響を与えることはなく、むしろ統一プロセスをめぐる東西の対立をより鮮明にしただけとも言えるだろう。

(研究員 金谷 美紗)

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