中東かわら版

№148 ヨルダン:カラク襲撃事件の概要

 2016年12月18日にヨルダン中部のカラクで発生した治安部隊と武装勢力間の戦闘については、インターネット上で「イスラーム国 ヨルダン」名義の犯行声明が見つかったが、ヨルダン及び海外のメディアの報道を整理すると、「イスラーム国」の主張とは事件の様子が違うかもしれない。「イスラーム国」の声明は、カラク城篭城が目的とも読めるが、武装集団は結果的に篭城作成に出た可能性がある。報道によれば事件の発端は、18日午後2時頃、カラクの北の村にある武装集団の隠れ家を警察が捜査ないし急襲したことである。隠れ家だったアパートの大家が異臭がするので警察に通報したともいわれる。隠れ家で治安部隊と銃撃戦となった武装集団は、その後、カラク方面に車で逃亡し、市内の警察署を銃撃した後、最終的にはカラク城に逃げ込んで篭城した。同城跡での約5時間にわたる交渉の末に銃撃戦となり、犯人4人が射殺されたようだ。一連の銃撃戦で警察官・憲兵・特殊部隊兵士(司令官を含む)7人、カナダ人観光客(女性)1人、ヨルダン市民2人の計10人が死亡した。

 衝突は18日だけで終息せず、20日にはカラクで警戒中の治安部隊が指名手配中の容疑者1人を拘束し、同人の証言で隠れ家に急行したが、同容疑者は隠れ家に逃げ込み、発砲したため銃撃戦となり、治安部隊側は同容疑者を射殺し、他に1人を逮捕したようだ。この時の銃撃戦で憲兵3人、警察官1人が死亡している。容疑者の捜索は、ヨルダン全土で実施され、アブドッラー2世国王は国家安全保障・危機管理センターで作戦の推移を見守ったと報道されている。21日も捜査は続き、アンマンの南部郊外などで容疑者10人が拘束されている。

評価

 カラクでは、まだ治安部隊の作戦が継続中のようであり、今後、新たな展開があるかもしれない。アブドッラー2世国王が、危機管理センターで野戦服姿で作戦の推移を見守っている映像が公表されており、ヨルダン当局が事件を重大視してることが窺がわれる。ヨルダンは、混迷するシリア、イラクと隣接しているものの、国内の治安は良好であり、ここ最近では大規模なテロ事件などは起きていない。今回カラクで起きた事件は、最近では最も規模の大きい治安事件になる。今回の事件では、武装勢力の摘発は偶然だったかもしれないこと、また隠れ家から爆薬などが発見されたことから、殺害された武装集団が、別の場所で大規模なテロ攻撃を計画していた可能性も指摘されている。

(中島主席研究員 中島 勇)

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